※色恋キャバ嬢設定


「なにその顔」
「べっつにィ」
「別に、助けてくれなんて言ってないし」
「俺が助けなかったらどーなってたか分かってんのかよ」
「ヤられるだけでしょ」

処女でもあるまいし、と名前は吐き捨てるように言った。色恋営業なんてするから、客が勘違いすんだ。寂しい兎の目をしてじゃれつきしなだれかかり、がっつかれたら、けどやっぱり止めた、だなんて通用するわけがない。

「端から友達営業すりゃいいだろうが」
「寂しいんだもん、仕方ないじゃん」
「仕方なくねーよ。相手を選んでから色恋かけろよ」
「私に優しければ誰でもいいの、最初は」
「で、相手が本気にしたらやっぱりアンタとは恋愛できませんてか」

皮肉をたんまり込めて鼻で笑ってやった。
なまえだって嫌味ったらしくふてぶてしく返すだろうと思った。風のない川辺。草むらに座り込んで、夜をやり過ごしたいんだろう。まだまだ月は目を覚ましたばかりで、太陽は眠ったばかりだというのに。

「急に気持ち悪くなるんだよね」

買ってやったホットのココアの缶を両手で握ったり指先を離したり、なまえはぼんやり遠くを見つめたまま。隣に俺がいるのも忘れたように、自分の中の感情や思考を拾い集めるみたいに途切れ途切れ、夜の静寂に寂寥が溶ける。

「なんでか分かんないけど。あしらわれてるくらいが一番良いって思っちゃう」

子供のように、両手で握った缶に口をつける。缶を傾けることはなく、なまえも俯きがちなままでは飲めるわけもない。

「多分、よく見たら、よく考えたら、好みじゃないんだろうなぁ。おっさんとか、よく考えたらないし。かっこいい方が良いし」

前歯がスチールに当たる音。そのまま、がじかじかじる音。空が高くて、星はあんまり見えなくて、けれどどこに視線をやればいいのか分からないから、両手を後ろについて背をそらせる。隣のなまえは背を丸めているから、余計小さく頼りなく見えた。

「さりげなく構ってくれるのはいーけど、なんか…がっつくっていうか、下心見えてるっていうか、そういうのヒく」
「見えてんの、シタゴコロ」

それはすごく、舌馴染みの悪い言葉だった。

「んー、距離が近い、とか、私の反応を計ってる、とか」

なまえは多分半分くらい飲んでいた缶をようやく傾ける。なだらかなその首が動くのを見ていた。ふう、と息をひとつ吐き出して。

「私が悪いんだけどね」

なんの感情も伴っていないような平坦な言葉はやけにはっきり聞こえた。それはなまえが俯くのをやめ、正面を見据えたからなのかもしれない。
寂しいんだろうなあ。本当なんだろうなあ。ついつい、人恋しくなるんだろうな。相手を選べよって、俺は言いたいんだけど。

「俺にすりゃあいいじゃん」

これって、なまえのいう、がっつくなんだろうか。確かに、反応を見てるというのは正しい気がする。そう考えて、口を滑り出た言葉に後悔した。

「ナニソレ、口説いてるの?」
「口説いてるの」

なまえの反応も、舌に馴染んでないようなよそよそしさが顕著だった。その泣きそうな口元を、無理矢理隠すように上げた口角が痛々しい。そんな顔させたいわけじゃないし、泣かしたいわけでもない。俺ならちゃんと、その辺弁えてやるから。なまえが泣きたいときに、寂しいときに、この胸を貸してやれば良いんだろう。それでも、俺の手だけがギリギリ届かない範囲にいれば良いんだろう。だから。

「…んな面すんなよ」

しなだれかかればいい。なまえがそうしたいときにだけ。触らない。近づかない。気持ちを顔に出さない。いつだって主導権はその手にある。