※バレンタイン




「いいですよ、別に。マヨネーズをかけられる前提で作りましたから」

口元は笑っている。けれど目が笑っていない。暗に、そのまま食えと言っているのはよく分かる。いやいや、食えるよ。食える食える。

「莫ッ迦、マヨがなくたって喰えらあ」
「ふーん」

そう言ってなまえは俺に寄越したやつより手の凝ったように見えるチョコをぱくんと食べた。多分、俺に寄越したのはチョコを溶かして型に入れて固めた感じ。いやっ、嬉しいけどね、嬉しいけど。

「…おいなんだそれ」
「作ったの。トリュフと生チョコー」

そっちくれよ、と言いたかったが、まずはこっちを食わねばならん。俺はハート型のチョコを手に取り、曲線の片方をかじった。ぱきん、と割れる。口内で緩くなっていくそれを咀嚼した。意外と、うまい。いける。そのまんまでも。

「…あれ? マヨかけなくても食べてる」
「お前は俺を舐めてんのか」

目標はなまえの食べてるやつだ。
灰皿で吸われることもなく灰になっていく煙草を揉み消す。口の中が甘ったりい。手の中のチョコをぱきぱき食べていく俺を、なまえは驚いたように見ている。あっ、またひとつ喰いやがった。

「どしたの、そんなにがつがつ食べて」
「ん、食った。そっち寄越せ」

指の熱で溶けてこびりついたチョコを舐める。手を出せば、なまえは黙って箱ごと寄越した。いくつか減ってはいるが、まだ半分以上は無事だ。

「なに、そんなにこっち食べたかったの」
「べっつに、そんなんじゃねえよ」

指で掴んだら、少し溶けた。口に含めばさっきのチョコより複雑な味がした。うまい。そのまんまでも。

「…お味は如何ですか」
「…うめーよ」
「それは良かった」

なまえの不機嫌そうな面が、少し崩れて笑った。その顔を見たときに、俺はあることを思い付いた。なまえ、と呼べば目線だけこちらを向く。

「口、開けろよ」
「え? うん、あ、生チョコがいい」
「あ? 我儘だな」

言われた通り、四角い方を口にいれてやる。それから、着物の袷を掴んで引っ張った。

「わ、」

驚いた形に開いた口に狙いを定めて唇を合わせて、舌を差し入れた。

「…む、」

睨まれたから目を塞いでやった。さっきのチョコより、甘くて、なまえの味がする。たまには、雰囲気に流されるのもいいかと思い、床についていたなまえの手に、自分の手を重ねた。