※3Z


「あっつーい!」
「うっせーやい」

沖田の乗るチャリの後ろに無理矢理乗って、真っ青な空の下を滑るようにじりじり熱い歩道を進む。最初は文句を言っていた沖田も、渋々といった様子で校門を過ぎた。すいすい進むチャリと、太い二の腕は逞しい。

「あっ沖田あー、コンビニ寄ろー」
「へいへい」

駐車場の端に停めて、先にぴょんと跳び降りる。暑い、ともう一度喚きながら沖田を待った。沖田の着ているカッターシャツの白が目に痛い。なんとなく見慣れない姿に目をそらした。コンビニの中は冷房が効いていて涼しい。なんとなしに沖田についていけばアイスストッカーの前に着く。

「俺、ガリガリ君にしよ」
「じゃあ私、いちごにしよっと」

横から蓋の隙間に手を入れ、青いパッケージの隣にある赤いパッケージを掴む。手を抜いたら沖田が黙ってガラスの蓋を引いた。

「あ、何飲む? 奢るよ」
「あんたもそんなこと言えんのか」
「前言撤回するよ」
「俺、コーラ」

コーラのペットボトルを取り出す。ついでに下の段に並んでいたカルピスのペットボトルも掴んだ。ジャンプを立ち読みしていた沖田をそのままにまっすぐレジに向かう。飲み物とアイスを置いて、ぺしゃんこの鞄から財布を取り出した。

「おばちゃん、これも」

後ろからすい、と腕が伸びてきて、青いパッケージのアイスが置かれる。レジを打っていたおばさんはルックスの良い沖田に気を良くしたような愛想でそれも打った。
無言で沖田を睨んで、千円札を取り出そうと目線を下にやる。お札の肖像と目が合ったとき、おばさんが、五百円お預かり致しますと言う。え、と思って沖田を見たら、片方の口角を上げる、あの嫌な笑い方をして言った。

「俺の奢りでぃ」
「…暑さでやられた?」

ふたり分のペットボトルとアイスの入った袋を受け取り、コンビニを出る。また、むわっと暑い太陽のもとに晒されると汗が滲んできた。沖田にコーラとガリガリ君を渡す。沖田はチャリの近くの段差に腰掛けて、青いパッケージを乱雑に開けた。私も、アスファルトが汚くないか確認してから、倣って隣に座る。熱い。浅く座って、足を投げ出す。

「いただきまーす」
「おう」

がりがりとアイスをかじる沖田は涼しげな顔をしていた。汗をかき始めたペットボトルを太ももの間に挟む。冷たくて気持ち良い。かじったアイスはいちごの甘酸っぱい味がした。
夏、といえば、各々進路が明確になる時期だ。沖田がどうするか聞いたわけじゃないけど、多分、離れることになるんだと思う。紺色のプリーツを眺めていたら、卒業したくないと思った。

「沖田あ」
「なんでぃ」
「私さあ、卒業したくない」
「あと半年あんだろ」
「あと半年しかないんだよ」

半分以上なくなったアイスにかじりついていた沖田を、じっと見ていたら沖田も私を見た。

「…なんだよ」
「なんか、寂しいなって」

いまから寂しがってんのか、と沖田がちょっとだけ笑った。しゃりしゃり、次第に柔らかくなるアイスに歯を立てる。

「沖田」
「なに」
「一口、ちょうだい」

一拍置いて、ん、とアイスが向けられる。遠慮がちに前歯でかじった小さめの一口は、夏の味がした。

「なまえ」
「…ん?」
「一口、」

名前の方を呼ばれて、返事が遅れた。私の赤いアイスを沖田の口元に差し出したら、大きく一口持っていかれた。

「ちょっと、一口おっきすぎ!」
「俺が買ってやったんだし、いいだろ」
「…そりゃそうだけど」

残りを、沖田の真似して目一杯頬張ってみた。少し噛めばすぐに溶けて、甘い液体を飲み込む。

「ね、沖田、今年もみんなでお祭り行こうね」
「…みんなで?」
「…みんなで」
「…俺ぁ、」

じりじり、夏の音がする。温い空気と、冷たいアイス。汗が首を伝う。剥き出しの首筋に刺さる太陽光線。
高校三年、最後の夏。きっと、この三年間の夏は、いままで過ごしたどんなそれより、これから過ごすどんなそれより、夏らしい夏なんだと思う。

「なまえとふたりで行きたいけど」

溶けたアイスが指を伝う。あ、と呟いた私の、アイスの伝う手を取る、大きな、少し陽に焼けた手。
ぺろ、とそれを舐める沖田と目が合って、赤い舌の覗く唇が、重なった。視界の端で、二口ほど残ったアイスが落ちた。けど、沖田の手は私の手を握ったまま。




タイトルは語感から音速ラインより拝借