※3Z


暑さに耐えきれず、短くしてしまった髪の届かない首筋が、じりじりと灼ける。

「ほんと、髪短ぇと女か分かんねえや」

学祭で配られたセンスの欠片もないうちわを扇ぎながら、後ろから声をかけられたけど振り向かなかった。声で分かる以前に、こんな腹立つことを言ってくるやつを、私はひとりしか知らない。

「つーか、なんであんた補習ないの」
「誰かさんとは頭の作りが違ぇんだよ」
「そーですか」

期末試験の結果、見事に夏期休暇中に行われる補習への出席を余儀なくされてしまった私は、太陽が精力的に働く中を往復し、クーラーのない教室でひたすら数式とにらめっこしていた。
つまり、あまり機嫌が良くない。大股で距離を縮め、隣を歩く沖田も暑そうではあったけど、容姿のせいか涼しそうな空気を纏っている。首筋を汗が一粒。

「ていうか、じゃあ何してたの」

補習についてのプリントを貰っていなかったのに、沖田は制服を着ていた。沖田は緩慢な動作でエナメルバッグから飲みかけのスポーツドリンクを取り出す。

「部活」
「…夏休み前に引退しなかった?」
「暇だし」
「勉強しろよ、受験生」

これみよがしに飲み物を呷る沖田を見ていたら、喉の渇きを覚えて私も鞄からコンビニで買ったお茶を取り出す。

「おめーこそ、落ちんじゃねえぞ」
「なんで」
「…やっぱ落ちろ」
「沖田が落ちろ」

暑さに負けてとぼとぼ歩く私と、だるそうな沖田。風すら吹かなくて、汗は頬を滑り落ちる。

「なんか、沖田が頭良いって、むかつく」
「僻むんじゃねーよ」
「だって、そんな感じしないじゃん」
「お前は見たまんまだな」
「どういう意味よ」
「バカっぽい」

否定できない事実ではあるけど、一応沖田を睨んでおいた。けれど沖田はさっぱり気にしなかったようで、腕で汗を拭っただけだった。

「まーまー、バカ返上するために補習行ってんだろ」
「…うん」
「頑張れ頑張れ」
「頑張る頑張る」

おどけた私が少し笑ったら、沖田も少し笑った。相変わらず、蝉は騒がしく主張しているし、太陽は熱を寄越している。あっちー!と叫んだら、沖田がうるせえと頭を小突いた。

「そういえば、沖田って志望校どこ?」
「…教えね」
「えー教えてよ」
「ヤだ」

ポケットに両手をいれて、猫背気味に歩く沖田が、ほんの少しだけ歩く速さを上げた。置いていかれたくなくて、私も少し歩幅を大きく取る。

「さては、ランク高いとこ狙ってるな」
「そうでもねーよ。お前が受けようとすんだし」
「え」

不意に立ち止まった私を、数歩先で振り返った沖田が見る。呆れた表情がありありと滲んでいる。

「だから落ちんなっつったろ」

やっぱり沖田は少しだけ笑って、背を向け歩き出した。うちわを扇ぎもせずに、駆け足で沖田に追いつく。覗いた顔はいつも通りで、なんとなく拍子抜けした。けど、口角が上がるのは止められない。

「じゃあー、私今日から頑張る!」
「頭悪そうな喋り方直すとこから頑張れ」

ぺし、と叩かれた肩がなんだか熱いけど、それは多分夏のせい。それは多分、ぎらぎら輝く太陽のせい。