ああ、またか、と吐いた溜め息がやたら切実で私は思わず苦笑いを零した。あの人の部下になって、予想通り仕事は増えた。それ以外にも、サボるあの人を探し回って、見つからなかったら代わりに見廻りをして。土方さんが何かと気を遣ってくれるのが有り難い。今日も、昼休憩から帰ってこないあの人を探して回る。

「沖田隊長ー」

積み上げられた書類を思い出しては足を速めるも、あの人は影も形もない。冷えた廊下を、足音をたてずに早歩き。早く見つけて、見廻り行かせて、書類を片して、今日こそ早くゆっくり寝たい。

「たいちょー、見廻りの時間ですよー」

いそうなところをまわってみてもいない。すれ違う人に聞いてみても行方は分からない。
ほとほと困り果てて、足は床板を蹴り始める。途中で時計を見た。あと五分後には発たなければならない。焦る気持ちがイライラを募らせていく。また見つからない。まだ見つからない。土方さんに泣きつこうかと考えるも、思い直す。土方さんも忙しい人だ。急に体から力が抜けた。なんだか疲れてしまって、駆け足も止まってしまう。
私が、行けばいいのだ。私が。見つからない人を探す時間が無駄だって、どうして気づかなかったのだろう。爪先を眺めたけど、脱力した肩まで気を張って顔を上げた。見廻りは私が行くしかない。踵を返す。

「どすどすうるせーな」
「たい、」

振り返った先には、人をナメたアイマスクを額へと上げる沖田隊長がいた。おまけに、くあ、と欠伸。

「そんなに喧しくされちゃあ、ロクに昼寝もできやしねー」
「…休憩は終わってます、沖田隊長」

何がロクに昼寝だ。私が毎日毎日遅くまで仕事をしているのは誰のせいだと思ってるの。あまりにも腹が立って、握った手に力を込めた。短いながらに爪が皮膚に立てられる。

「…急いで見廻りに行ってきてください」
「…なまえ?」
「私は忙しいんです!」

気づいたときにはもう遅くついつい声を荒げてしまって息を飲む。下げた視線を恐る恐る上げて、隊長を盗み見た。視線が合って、けれど気まずくて目を反らす。

「すみません、」
「別に」

短く吐き捨てた隊長は私に背を向ける。気まずいながらもその私を拒絶するような背中に、どちらへ、と尋ねれば、見廻り、とだけ帰ってきた。

「お気を付けて」

返事はなかったけど、私は書類の積まれた部屋へ戻った。

















「なまえ」

顔を上げたら、障子がゆっくりひかれた。怖い顔をした隊長が立っている。時計をちらりと見たら、時間は思ったより過ぎていた。

「お疲れ様です」

立とうとしたのを制されてその場で軽く頭を下げた。隊長は脱いだ上着とスカーフを座布団の上に放る。

「あ、お茶持ってきます」
「なまえ」
「はい、」

先ほどのことを咎められるのかと私は少し俯いた。立った私をすり抜けて、隊長は私が座っていた座布団に腰を下ろす。隊長は顔も上げずに言った。

「茶持ってきたら、上がれ」
「え、でもまだ、」
「俺がやっとく」

隊長はずっと、こちらを見ない。サボってばかりの隊長に仕事をしてもらえるのは嬉しいけど。有り難いけど。

「隊長、あの、どうかされたんですか」
「…別に」

ふい、とそっぽを向かれる。どうしよう。嫌われたのかな。私があんなこと言ったから?
文机の前に膝をつく。

「隊長、あの、さっきはごめんなさい。私、」
「別に、なまえは悪くねーよ」
「でもなんか、隊長、へん」
「…だからなんだ、あー……悪かったな」
「え」

やっと目が合ったと思ったらすぐに反らされてしまった。けどまさか、隊長からそんな言葉を聞けるなんて思いもしなくて。

「あ、おい、なに泣いて」
「すみません…」

ぐすぐす言う私に、隊長は手を伸ばして、俯いた頭をそっと撫でる。もう一度、悪かったと呟く声がして私は頭を振った。





口調難しい