※マダムとかホストとか編のアレ
「てことがあったんだよな〜」
だいぶ酔いは醒めたらしい総悟が、私が敷いた布団に大の字になってそう言った。それでもまだ頬は赤い。水でも持ってきてやろうかと思ったがやめた。
原因はこいつの話にある。近藤さんやら歌舞伎町のホストやらとなんやかんやで、一晩ホストをやってきたのは、まあ許す。近藤さんが関わっているなら仕方ない。けれど、だ。土方さんに天職と揶揄されたくだりで私の眉間には皺が刻まれた。両手に花抱えてしこたま酒飲んできたんですか。そりゃ良かったねえ。私というものがありながら。
「なに、転職?」
「まあ天職には違えねえな」
「そっちじゃねえよ。転ぶ方のてんだよ。真選組辞めんのかって聞いてんの。ホストとして生きてくのかって聞いてんの」
「なに苛々してんの」
苛々していたのは間違いないから、横になっている総悟を正座で見下ろしていた。そうしたら、生理? なんて聞いてきやがったから、ちげえよとその額を叩いてやった。
「おーこわ」
「うるさい、酔っ払い。早く寝ろ」
「なに怒ってんだよ」
「べっつに」
やっぱり苛々するから、総悟の足元でぐしゃぐしゃにされていた布団を引っ張り上げた。頭まですっぽりかけてから思いついて、ぎゅっと顔を押さえつけ、腰を上げる。
襖を開けたら名前を呼ばれて、渋々振り返ったら目のすぐ下まで布団を下げた総悟の、子供のようなまんまるい目にぶつかった。名前を呼んだくせに何も言わなかったから、私も少しの間視線だけをやったけど口は閉じていた。
「キャバでもして稼ごうかな〜」
「おめーみたいな不細工雇ってくれるとこなんざねえよ」
「その口縫ってやろうか」
「しかもその言葉遣いだしな〜」
むかっときたけど、まあ的外れではないと思わなくもないから後ろ手で襖を閉めた。外は意外と静かで、普段ならとっくに寝ている時間に耐えかねて欠伸をひとつ。布団を取られてしまったから、土方さんに一声かけて客間でも借りようか。土方さんももう寝てるだろうか。総悟の部屋や布団は、意地でも使いたくないと思った。
お勝手に向かう途中、土方さんの部屋には灯りがついていたから、簡単に事情を説明して客間を使う了解を得た。土方さんもひどく酔っていたのでさっさと部屋を出る。当たり前だがこんな時間だからお勝手は無人で、私は湯のみに水をいれて部屋に向かった。
まずは土方さんに。さっき言わなかったおやすみなさいを言って、仕方ないけど総悟に占拠されている私の部屋へ向かった。声もかけずに襖を開ける。総悟は天井を向いていた顔をこちらへ向けた。
「ん」
枕元に湯のみを載せたお盆を置く。
黙った視線がその動きを追っている。
「明日もちゃんと起きなさいよ」
じいっと私の目を見る目。怪訝に思ったけど、いまの私は機嫌が悪いのだ。忘れていたけど。ついていた膝を床から離す。
「なまえ」
「…なに」
「寝ねえの」
「寝るけど」
「どこで」
「客間」
「………」
「土方さんにも言ってあるから」
にょきっと布団から飛び出た手が足首を掴んだ。
「ちょっと、」
「………」
「なにすんの、離してよ」
そのままぐいぐい引っ張られたと思ったら、勢いよく上体を起こした総悟が、今度は手首を掴んだ。
「さっさと水飲んで寝なさいってば」
「…分かってらあ」
「わっ、」
掴まれた手首を力強く引かれて、前に、というか総悟の上に倒れてしまった。にやにやしているその顔が気に食わない。
「まったくなまえは積極的だな〜」
「自分がしたんでしょうが」
「仕方ねえから一緒に寝てやっか」
片手で一息に湯のみを傾けた総悟は、有無を言わさぬ力加減で私を横にさせる。枕の半分に私の頭を載せて、肘をついて上体を起こし私の背に布団がかかっているか確認したり。こんな総悟は総悟じゃない。
「頭でも打ったの?」
「なまえじゃあるめえし」
「いっつも一言余計」
「好きな女はいじめたくなるタチだからなあ」
珍しい、その言葉に顔を上げようとしたけど、それは総悟が私を抱き枕にしているせいで叶わず。けれど、まあ、おとなしく抱き枕にでもなってあげようかと思った。