分かっちゃいたけど他人に突きつけられるのはまた別もんだろう。傷つかない。傷つかない。悲しくない。悲しくない。そう言い聞かせた。ベビーフェイスにポーカーフェイス貼り付けるのは、人殺しより得意かもしれない。
心の中で宥める。傷つかない。傷つかない。悲しくない。悲しくない。泣かない。泣かない。
「…おかえり」
「…まだ起きてたんかィ」
「うん。ていうか」
おいでおいでをされた。素直に従ってしまうのは、ここが戦場でないからだ。見栄を張らなくても良いからだ。ガキ、だなんて笑ったりしない。ヒネて拗ねたガキを、突き放しつつ抱きしめてくれるからだ。悔しいけど。まあ、いい。
「…血ぃ、つくぞ」
「気にしないよ、部屋着だし」
「…ねむ」
「着替え用意しとくから、湯浴みしておいで」
なんて言いつつ離してくれないのは、離されたくないのに気づいてるからなんだろう。いつも俺を優位に立たせて、俺が選んで俺が決めてる体を取らせてる。反抗せずに済むように。全部バレてるなら、それはそれで良いってこと。
「なまえ」
「んー?」
「俺ぁ、どんな目ぇしてる」
「赤茶色」
求めてるものと違うものを寄越すのはわざとだ。肩の力を抜けるように。俺が考えてることは、違うって教えてくれる。
「あと、寂しがり屋かな」
「…マジか」
「上手に隠しちゃって」
茶化す。重い空気を逃がす。それでいて、気にする言葉をかき消す。
人殺し。
まあ、間違っちゃいねえし、寧ろ正しいし。俺は土方さんより淡白じゃなくて、近藤さんより冷えてる。認めたくはないが、まだガキなんだ。ふと感じるのは斬るときじゃない。斬った後だ。あー、なにやってんだろ俺、ってよく考えたらなに考えてんだか。
もう数え切れないほど殺したのに。殺した奴に恨まれて、そいつの家族に恨まれて、そいつの仲間に恨まれて。もしかして世界中の全員に恨まれてるかもしんねえとか、ガラにもない。ガラにもないんだけど。たまに、そういうのがぐるぐるして、怖くなる。悪夢を恐れて眠れないのに、少し似てる気がした。
「人殺しの目だって」
「…ん、」
「言われちまってさぁ」
次になんて言って良いか分からなくて、黙った。言われちまって、俺は。俺は?
斬って殺して、斬って殺した。その分、恨まれる。やっぱり良い気はしない。
「そっか。攘夷志士を斬ってる総悟は知らないけど、でもいまは、寂しい目をしてる」
よしよし、と頭を撫でる手が心地よい。触れられるってのは存外、悪くない。近藤さんの手でもそう思った。まだ優しくしてくれる人がいるんだと思える。こんな俺にも。
「ていうか」
停滞していた空気を裂くようななまえの声が落ちる。声色で分かる。怒ってる。でも、見上げた先は、とても穏やかで優しげで。女って、こういうところ、あるんだ。俺と変わらないくらいの年齢でも、こうやって、いつか見たような顔をする。
「だれ、そんなこと言ったの」
「言ったらどーすんの」
「シメる」
「なまえには無理じゃねぇかィ、いくら鈍でも」
「なまくら?」
「そ、」
鈍なんてどうでもいいから、そんなん俺が斬るから、だからなまえはいつでも俺を慰めて笑わせてよ。