腹が立ったので有給休暇を取りました。初めて。土方さんを押しきり獲得した五連休を利用して湯治に行きます。

「ということで」
「ということで、じゃねえよ」
「私がいない間頑張ってください。じゃ!」

眉間に深い皺を寄せて半目で睨む隊長を軽くあしらって私はキャリーを引いた。



「てめえ、何したんだよ」
「知るか」
「すげえ剣幕だったぞ。俺としたことがちょっと怖かった」
「鬼の副長ともあろーお方が女にびびってんですかい」
「てめえのせいだ」

思い当たることと言えば、冷蔵庫に入れてあった菓子を食ったことか、冷蔵庫に入れてあった菓子を食ったことか、そんなことくらいで。

「それだろ、確実にそれだろ」
「ええー名前書いとけって」
「書いてあったろ!物凄いでかい字で書いてあったろ!てめえどんだけ目え悪ぃんだ!」
「あっ書いてあったかもしんねえ」

ちょっと覗いてみたら、お取り寄せグルメとして番組に取り上げられていたやつだったから。

「…食べたのか」
「嫌だなあ、全部は食べてねえでさあ、一口残してやりました」
「お前何様!?」

だって俺が美味そうっつったやつだったんでさあ、と口を尖らせてみる。そうしたら土方のヤローが一瞬怪訝な表情をした。それから口元を隠すように煙草を咥える。えっなんか腹立つ。

「ほおー、そら怒るわ、有休取りたくもなるわ」
「…どういう意味だよコノヤロー」
「…お前、今日何月何日」
「ついに頭もおかしくなりやしたか。七月七日でさあ。ガキ共が七夕だってはしゃいで、」
「明日は」
「明日? …あ」

今日七日になまえは湯治に行った。五日俺があれを食ってその日の内に名前は有給休暇を申請して六日に受理された。そして明日、七月八日は。土方コノヤローがにやにやと俺を見るのが気に食わない。

「誕生日プレゼント勝手に食っちまったんだもんなあ」
「別に」
「おかげでてめえはなまえにおめでとうすら言ってもらえねえと」
「…俺も有休取る」
「させねえよ」
「なまえ、どこ行くっつってたっけ」
「させねえっつってんだろ」

腹が立ったが素直に腰を下ろした。汗をかいた麦茶は薄まっている。かち、と氷が爆ぜる。セブンスターの煙が熱に浮かされたみたいに景色をぼかした。

「なまえが帰ってきたときに仕事溜まってたんじゃあ余計機嫌損ねんぞ」
「へーへー」

その日から五日間、俺は珍しく書類整理に精を出した。その日のものはその日のうちに片した。見廻りもさぼらなかった。くたくただ。昼寝したい。
十二日、重い体に鞭打って、朝飯を食いに食堂に向かった。眠い。慣れないことはするもんじゃない。欠伸を噛み殺す。僅かにこぼれる味噌汁の匂い。

「あ」
「…お早う御座います」
「はよ」
「…休暇終わったので今日から職務に復帰します」
「おお」
「…土方さんから聞きました。私の休暇中、一度もさぼらずにお仕事してたそうですね」

余計なことを言った土方を呪ったが時は既に遅い。気恥ずかしくて何も言わずに席に付いた。丁度よく女中が盆に載せた朝飯を運んできた。

「今日は、」

味噌汁をすする音に掻き消されそうなほど小さななまえの声。

「少しくらいお昼寝してもいいですよ」
「…そりゃ有難え」

うん。あとで、ごめんて言おう。それから土方には何も言うなとも言わねえと。あのにやにやした顔には無性に腹が立つ。
熱い味噌汁を一気に喉に流し込んだ。冷まさないと火傷しますよ、となまえが笑った。