※悲恋風味
隠す気も無いということは、私はその他大勢の内のひとりなんだろう。彼に本命がいるとは思えないけれど。
だからこそ私は錯覚していたい。
「ねえ何考えてるの?」
「…あなたのこと」
私が彼のものになったときに気付いたのだ。彼の裡に入って初めて分かったのだ。
あなたは。
いつも違う、私の知らない香りを纏い、付けた覚えのない鬱血を負っていた。ああ、と私はその瞬間に醒めた。私の理性的で、合理的な部分は急速に熱を冷ました。けれど、本能を孕む私は醒めなかった。
それから私は矛盾の塊になった。
「なまえは僕のことだけ考えてなよ」
よく言う。貴方は私のことなんかこれっぽっちも考えていないことなんて分かりきっている。真意を汲みたがらない私は、言葉の意味を履き違えてしまう。
分かっているのに。分かっているからこそ。悔しい。悲しい。貴方にとって私にはどんな価値があるの?私を見る目は嘘のくせに。
「なまえは僕のものだよ」
「じゃあ神威は私のものなの?」
いつも通り、貴方は偽物の笑顔でキスした。誤魔化さないでよ。本当のことを言ってくれたなら。貴方のかけた魔法は容易く解けるのに。
「なまえは僕を愛してる?」
おもちゃみたいな言葉。そぐわない。似合わない。確かに沈殿する違和感。どろどろと、私の足を掴んで離さない。
もう許してよ。
「もっと愛して」
表情が無くなる。弧を描いていた瞼が瞳を晒す。巧いものだと思う。分かっている。寂しいと死んで仕舞う、兎の青い瞳に私が写っている。
覗き込んだ、心。
何が見えた?
「愛してるよ」
価値の無い愛なんだから、幾らでもあげるよ。空っぽの私が貴方にあげられる愛なんて、空っぽなんだから。
愛してって言う前に私を愛して。愛されたいのは貴方じゃない。愛されたいのは私なのに。
気付いて。気付いてくれないなら、どうか優しく。私を壊して。
骨の髄まで吸い切って、食んで、粉々にしてよ。
ヴァンパイア/Janne Da Arcからの妄想