※バレンタイン


「ごめんくださーい」

声をかけたら瞬く間に戸が開く。なんだか心なしか必死の形相で、私はたじろいでしまった。

「あれ? この前の」
「その節はお世話になりました」

正直、新八くんに出て来て欲しかったのだが仕方ない。仕事を依頼した際に一番話が通じたのが彼だったことは言うまでもない。けれど万事屋さんはぐうたらしているだけでないことも分かったので私は素直に礼を述べて少し頭を下げた。

「何? また依頼?」
「いえ、今日はこれ」

私は紙袋を差し出す。万事屋さんはそれを凝視している。

「この間はお世話になったので」
「えっ、え、もしかしてアレ? いま巷で大流行してるアレ? ちょから始まるアレ?」
「…そうだと思います」

万事屋さんはたっぷり驚いてから、そわそわと紙袋を受け取ってくれた。貰い慣れていないのか。もごもごと何か言っている。切り上げて帰ろうかと思ったが、寂しいことに特に予定もないので黙っていた。

「…大丈夫ですか?」
「あ、ああ、うんだいじょーぶデス」
「…には見えませんけど」

万事屋さんは乱暴にふわふわの髪をかき混ぜる。

「銀さん、いい歳こいてチョコに舞い上がってんのー」
「万事屋さんはいっぱい貰ってそうですけど」
「またゼロでファイナルアンサーかと思ってたよ」

あのやる気の無い目で万事屋さんは自嘲気味に笑う。よく分からないがゼロでファイナルアンサーということは私のが一つ目なのか。沢山のチョコに紛れるだろうと用意したことが恥ずかしくなってきた。万事屋さんは勘が鋭いから、このチョコに込めた意味まで見透かされてしまうかもしれない。

「万事屋さんと新八くんと神楽ちゃんの分、入ってるので渡して頂けると助かります」
「…俺だけじゃないのね」
「え、…すみません」
「いやいや、いーよいーよ。貰えただけでも十分」

あ、と万事屋さんが呟く。ちらりとこちらを見てから、また髪をかき混ぜた。

「あのさあ、立ち話もなんだし…時間あれば上がってかない?」
「え、いいんですか」
「いーよいーよ、暇だし」

奥から新八くんの声がした。当たり前だが三人バラバラのチョコにして良かったと思う。とにかく私は、万事屋さんのチョコだけ手が込んでるとバレないことを祈って、内心どきどきしながら戸を閉めた。