※映画地獄篇ネタバレ




そんなこと、きっとずっと分かっていた。ただ、信じたくなかっただけだった。だから貴方は地獄に来たのだと、言ってやれば良かったのか。すべて遅過ぎた。私は、彼を救いたかったのか。救われたかったのか。

「…俺を罵るか。したけりゃ、すりゃいい。お前を騙してたんだ」

目も合わせてくれない。人間のもたらした興奮は収まってしまったようだ。寧ろ、より不機嫌になってしまった。残った死神と人間の意識はまだ戻らない。返してやりたいと思ったが更に機嫌を損ねると思って黙っていた。

「…いいえ。知って、いました」
「…そうか」

視線は前方に向けられている。私は悲しそうな横顔を眺めていた。幾度も業火に灼かれた右半身は二度しか見たことがなくて、私は悲しくてたまらなくなった。それだけ灼かれても、彼は気付かない。分からない。分かろうと、しない。悲しい。私じゃ伝えられないと思って、何もしなかった私は、ただの卑怯者だ。

吊るされた死神と人間が見えない位置で私は数度休んだ。眠るときも起きたときも、黒刀は変わらず化け物と呼んだ人間を待っているように見えた。あの死神と人間を取り戻しに来るだろうか。あの人間なら来るかもしれない。そうでなければ、またどうにかして呼び寄せるのだろう。私は、どうすれば良いのだろう。

「…なまえ」

名前を呼ばれたのは久しぶりな気がした。黒刀を見れば、遥か上空を凝視している。倣って上を見た。この濁り腐り陰鬱とした空気を裂く音が、こちらへ向かってくる。ああ、来た。来てしまった。黒刀に視線を戻した。彼も私を見た。

「…隠れてろ」

私は黙って朽ちかけた骨の影に移動した。口角が上がっている。彼が自由になったら。きっとそんなことはできないのだろうけど、もしそのときが来たら、私は。私はどうしよう。



信じられない。あの人間は、何者なのか。あの黒刀が、歯が立たないなんて。あの金色の髑髏。きっとクシャナーダが、いや、地獄そのものが、黒刀に罰を与えようとしているのだ。私は、私は。

「これで俺は、自由だ!」

弾んだ声が、私の意識を引き戻す。鎖が、外れている。私の鎖は、胸の真ん中から垂れている。違う、と思った。本能で、感覚で、私は影から飛び出した。

「黒刀っ!」

彼の目が私を捉える。何か言おうとしたそのとき、無数の鎖が彼を捕らえようと腕を伸ばした。

「黒刀、」
「なまえ、何故だ、どうして」

私が黒刀に飛び付いた途端、黒刀の四肢を捕らえた鎖が私ごと彼を縛った。いままでのどんな責苦より、痛い。けれど、大丈夫。

「黒刀、あなた、あなたは間違っていたのよ」
「俺は間違ってなんて」
「だから、」

地が裂ける。鎖が沈む。私たちを抱いたまま。

「一緒に、考え直しましょう」
「なまえ」
「大丈夫、一緒だから」

痛みに耐えきれず目を閉じた。口を動かすことすら辛い。黒刀は黙ったまま自由の利く頭だけ私へ傾けた。




セリフもシーンもうろ覚えです。