一面に飛び込んできたそれは、直視するにはあまりに眩しかった。輝く白に、目を慣れさせようと幾度か瞬きを繰り返す。その内にそれが白でなくベビーブルーをもっともっと薄めたような色をした、空だと気づいた。刺すように光る空を遮ろうと、両目を庇う為に左腕を翳す。その腕が纏う尼僧服は血で汚れ破れ、覗いた肌に疾る傷を認識したときに、私は右腹部に痛みを自覚した。
「…いっ、」
右腕で触れる。手袋越しに伝わる粘着質の感覚。掠めた指先は更なる痛みを呼び寄せる。耳の奥から響く胸騒ぎは、逸る心臓の音だった。自分を取り戻す度に、記憶は露わになっていく。首も痛いとか、足も痛いとか。そういえば、吸血鬼はどうなったのか。覚えているのは、尼僧服を切り裂かれ露わになった太ももを掴まれ、装備していた小型の拳銃を吸血鬼に向けて撃ったところまでだった。しかし、指先の感覚が正しければ胸の下から腹への裂傷から血が滴っている。
「あー、死ぬかも」
覆った腕を少し上にずらして右手を見る。血液はしっかり手袋に染み込んで重たい。イクス神父はどうしただろう。足を引っ張っていなかったら良いが。眩しい空が滲むように目を灼く。自ずと細められる瞼は、微睡みと勘違いしたのか重くなる一方だった。
「寝たら死ぬぞー、頑張れ私」
自分を励まそうにも、情けなく咽せてしまう。イクス神父の銃の音も先ほどまでの喧騒も聞こえない。ぼんやりと、落ちる瞼に従って目を閉じた。
「損害評価報告を。シスター・ナマエ」
聞き慣れた声が降ってきて、私は目を開けた。私を覆うように影ができていて、逆光だったけれどイクス神父であることはすぐに分かる。
「…見ての通りです」
片膝をついたイクス神父の指が、傷を探る。痛みに足が跳ねても、動くことを止めない。私はひたすら歯を食い縛って耐える。
「全身を負傷しているが、特に腹部の損傷が激しい。応急処置を行う」
イクス神父は黙々と圧迫止血を行い、傷口にガーゼを当てている。傷を見るために躊躇いなく尼僧服を破かれたことを思い出し、いまさら恥ずかしくなるがイクス神父は全く意に介していないように見える。
「イクス神父…」
「シスター・ナマエ、傷に障る可能性がある。喋ることは推奨しない」
「すみません…足手まといですよね」
「否定。潜入捜査及び一般市民の避難等、卿の働きが任務成功に貢献した」
その手は休まることなく、包帯を巻き付けていく。替えの尼僧服はトランクに仕舞ったまま。イクス神父は僧服のケープを脱ぎ、私の体を隠すようにかけた。地面に溜まっていた血液が染み込む。
「イクス神父、」
「卿は尼僧服を損傷している。体温の低下を防ぐためにもこれが最善だ」
「でも、汚れます」
「問題ない。これより卿を教会病院に搬送する」
背中と膝の裏に腕をまわしたイクス神父は、何事もないかのようにそのまま私を持ち上げた。ずんずんと、まさに機械的な動きでイクス神父は歩を進める。その規則的な揺れがなんだか心地よくて、私はこっそり目を閉じた。鼻先までかかったケープからは、硝煙の匂いがくゆっている。