ひりひりと風にうたれた頬が痛んだ。切るのが面倒で伸ばしたままの長い髪は風に遊ばれ後ろに飛んでいくから、チタンのボディピアスはそれぞれ冷えて頭痛の種になる。ざくざくと足元の雪は空気を吐き出していく。真っ白に浮かび上がる雪を踏み荒らす私の黒いブーツ。確かに寒いけれど、この酷く冴えた空気は好きだった。刺すような、射るような尖った空気がちょうどいい。痛いくらいでちょうどいい。ブラックのジーンズに、黒いモッズコート。寒いのには慣れてるから、コートの下はブラックのヒートテック一枚で問題ない。黒ずくめで、途中にあったコンビニに寄る。握っていた百円玉二枚の代わりにホワイトチョコとナッツのアイス。余りは募金箱にイン。パッケージは外のゴミ箱に捨ててくあー寒い。けどうまい。てゆーか、寒いからうまい。ジーパン越しの肌が冷えて痛む。ぎりぎり、ひりひり。それくらいでちょうどいい。雪を載せた向かい風。目を開けていられないから下を向きながらアイスを食む。くどくないホワイトチョコに、歯ごたえのあるナッツ。無心で踏み荒らす、膝まで積もる雪。誰の足跡もない道なき道。振り返れば、内股の足跡がくねくね揺れながら続いていた。沁みる前歯を避けて、犬歯と奥歯で噛みついて咀嚼していたアイスもあと一口。木のスティックについたアイスも丁寧に舐めとって。髪に載る雪を、頭を振って落とすけど濡れてしまう。うざったくて束になった前髪をかき上げる。煙草吸いたいと思ったけど、持ってきてないから仕方ない。ビール飲みたいと思ったけど、買わなかったから仕方ない。尖る空気に晒されて、露わになってく。なんもかんもどうだっていい。私は。腕の痛みが恋しい。腕の傷が恋しい。痛いくらいでちょうどいい。痛いくらいがちょうどいい。酷く冴えていくから。被った仮面すら剥ぎ取って、私が顔を覗かせるから。本当は、もう全部どうだっていい。どうでもいい。私が守らなきゃいけないのは私だけだから。本当は、いまも世界のどこかで起きてる戦争だって、飢えて死ぬ子供だって、格差をなくすことを訴えるような、賃金を減らされることに反対するようなデモだって、どうだっていい。私自身は痛くも痒くもない。私が痛くて痒いのは、きっとその人たちには分からない。私に明日は必ず来る。私は毎日三食ご飯を食べられる。箪笥を開ければ着るものが沢山ある。両親が守る、私の帰る家もある。兵役なんてありえない。飢餓なんてありえない。私はそういう国に産まれた。私はそう運命を与えられた。だから、私には分からない。だから、私は衣食住に悩まされなくても不幸を感じる。しんしんと雪が降り注ぐ。相変わらずピアスは冷えて頭は痛かったけど、もう風は吹いていない。ただまっすぐに降り積もる雪の結晶。睫毛に絡む。髪に絡む。そんなの、どうだっていい。木々は枯れた枝に雪を湛える。軋む音さえ聞こえそうなほどに。空も白く、地面も白い。黒いのは春を待つ木々と、死に焦がれる私だけ。泥に汚れない雪はただただ、眩しいくらいに白い。目を閉じた。それでも眩しい。寒いのは頬とピアスの蔓延る耳と頼りないジーパンに包まれた足ぐらい。あと財布。いつだって私は幸せだ。けれどそれは当たり前でもあった。この国に産まれたということが、即ち幸せなんだ。それでも、当たり前に享受できるものは幸せに値しない。そんなの当たり前。与えられて当然。持っていて当然。だからこそ、幸せは遥か遠い。ふらふらと雪が落ちる。誰の足でも汚されていない雪は綺麗にただ白く積もっていく。死ねなくたっていい。死ななくたっていい。一寸、自暴自棄になりたいだけ。私はまっすぐ倒れた。頬に直接触れる雪が冷たい。じわじわと体温を奪っていく。ひりひりと、痛んでいく。これくらいがちょうどいい。これくらいでちょうどいい。凍えるけれど、冴えて醒めていくような冷たさ。心地いい、刺すような冷気。これくらいじゃあ、死ねないし。死なないし。それでも、ただ一寸、自暴自棄になっただけ。