ちょっと休憩、と二回戦を終えてから声をかけた。春だというのに、うっすら汗をかいているのはそういうことだ。蛭魔の腕に頭をのせて、胸によりそう。もうすぐ蛭魔のカノジョになって二年、今日は大学の合格発表の日だった。泥門デビルバッツがクリスマスボウルで、優勝常連だった帝黒学園をくだしてから、早いもので一年以上が過ぎ去っている。アメフトバカは健在だけれど、時間に余裕のできた蛭魔に本格的に受験対策をしてもらって約半年。一年のときからコツコツ積み上げてきたことも、私の明るく晴れやかな春に繋がった。大学は同じところ行くぞ、と言い続けてくれた蛭魔と、ほんとうに同じ大学に受かったのだ。泣き出した私に、母親に連絡しろ、と急かしてくれた蛭魔の優しい目をはっきりと思い出せる。

「なあーに考えてんだ」
「ん、嬉しいなあって。同じ大学」
「…そうだな」
「三年、すごい長かった。やっと一緒だ」

 蛭魔は額にキスをすることで返事にした。私も熱かったけれど、蛭魔のほうが燃えるように熱い。甘えるように胸にほおずりをすれば、蛭魔はやわらかい抱擁で返してくれる。

「ねえ…妖一」
「ん?」
「まだ言ってなかったんだけどさ…」
「なんだよ」
「ママがね、同棲しても良いって言ってくれた」
「…まじで?」
「うん。私、ここに越してきても良い?」
「良いに決まってんだろ。部屋ひとつ片づけるから使えよ」
「うん!」
「ベッドはこれな」
「もちろん」

 蛭魔には言っていなかったけど、母とは約束をしていたのだ。もし最京に受かったら、蛭魔の家に住むことを許して欲しいと。母に蛭魔を会わせたし、蛭魔も母とは誠実に受け答えしていたし、私の成績が良かったのも蛭魔に教えてもらっていたおかげだと何度も言った。蛭魔が母になにを言ったのかは知らないけれど、母は少し考えて、それを許してくれた。蛭魔のことを、素敵な彼氏だとも言っていた。

「妖一がさ、いまだけ耐えろって、言ってくれたじゃない?」
「言ったな」
「ほんとうに…耐えて頑張ってきて、良かった」
「よく、頑張ったな、なまえ」
「ありがとう、妖一。だいすき」
「俺もだ」

 でも、ここはゴールじゃない。また、新しいスタートだ。蛭魔と栗田くんとムサシが作った泥門デビルバッツは受け継がれていくけど、これからは三人とも別の道を行く。

「でも…さびしいな」
「? なにが」
「今度は、栗田くんとムサシは敵なんだね」
「…おー」
「ふたりだけじゃない。あの頃のデビルバッツは、もう二度と戻らないんだね」
「…なまえ、言ってたろ。前に進むしかないんだって」
「…うん」
「麻黄デビルバッツ、泥門デビルバッツあっての、いまだ」
「…うん」
「だいたいいっぱい写真撮ってアルバム作ってたろ」
「…そー、だけどさ、」
「それに、会おうと思えばいつでも会える」
「…そうだね、」

 中学生のとき掲げた夢も、叶えてしまえば通過点でしかなくて、私たちはまだまだ先に進まなくちゃいけない。いや、進む道がある。でも、これからは、蛭魔と一緒だ。

「しかし、まー…」
「うん?」
「ベッドで他の男の名前を出すたー、いい度胸してんじゃねえか」
「え、ごめん。そういうつもりじゃ」
「そろそろ休憩は終わりだ」
「きゃ、」

 すぽ、と枕にしていた腕を抜かれて、蛭魔が私に覆いかぶさる。噛みつくようなキスをされれば、一気に甘く重い空気がふたりを包んだ。もう私は、ためらいなく蛭魔の首に腕をまきつけることができる。ひきよせて、抱きあうことができる。いまなら、声を我慢することも、好きと言わないようにすることも、必要ない。唾液を交換するように舌を絡めあわせて、歯をなぞって、愛を交歓する。汗ばんだ肌に、蛭魔の手が這う。大きくて、熱い手のひら。触れられたところから、溶けてしまいそう。唇を離した蛭魔が、私の瞼にキスをする。

「なまえ…」

 蛭魔はそこらじゅうに鬱血を作っては、余すところなどないように全身を舐める。少し落ち着いていた、灯がぼうっとともる。私の口からは、気持ち良さに耐えかねた声がこぼれる。足の指が舐められると気持ち良いだなんて、気づかなくても良かったのに。足先からだんだん上がってきた蛭魔は、ふたたび濡れだしたそこに舌をつけた。

「…あぁ、」
「びちょびちょ」

 からかうように言った蛭魔の舌が、粘液を掬いとる。少し前まで刺激され続けて、すっかり熟れていた芽を、またもや狙う舌先。固くした舌でこすられたり、吸われたり、とがった歯をたてられたりしているうちに、腰が揺れる。逃がさないとばかりに太ももを押さえつけられて、じゅる、と音が耳を犯す。

「ぅん、あ、あっ、あっ」
「…はー、ウマ…」
「そこ、ぁん、あんま、しないで…」
「この前ラブホで電マ当ててたら潮ふいたの誰だっけかなあ」
「それはっ、妖一がやめてくれないからで、んっ」
「いっぱいして、の間違いだろ」
「ああっ、まって、だめ、いく、ぅ、う、んんん!」

 蛭魔が喋っている間、代わりに突起を責めていた指が、震えながらそこをこする。ぬるぬるをまとっているせいで滑りもよく、根元からこすりあげられてしまう。腰が震える。大きな波がこわくて、両手で枕の端を掴んだ。静止の声も聞き入れてもらえず、ゴシゴシこすられて快感が弾け飛ぶ。びくびく跳ねる腰を無視して、蛭魔がまたそこを口に含んだ。生ぬるい舌で舐めつくされて、次の波が見えてくる。こわい。こわいけど、とても気持ちの良いことを私は知っている。喉をしぼってボリュームを調整するのがぎりぎりで、体を奪われる感覚とともに悲鳴があふれた。
 顔を離した蛭魔が、手の甲でくちもとを拭う。それを、荒い息のまま見ている私。

「挿れんぞ、」
「うん、」

 ゴムを取った蛭魔が、慣れた手つきでそれをつける。この約二年で何回したことだろう。体を交わらせるというのは、最上級の愛の表現かもしれない。私の体を愛でる蛭魔に、私の体で果てる蛭魔に、どれだけの愛を感じただろう。
 ぐちゃぐちゃにぬかるんだ穴をぴったりふさぐように、蛭魔が侵入してくる。感嘆の声を漏らしながら、腕を伸ばしてその首にかじりついた。体が満たされるだけじゃない。その熱に、心まで満たされていく。

「よおいちい、」
「…なんだ、甘ったれ」
「きもちいよお、」
「…俺もだ」

 優しく笑った蛭魔がくちづけをくれて、首を傾ける。硬い熱が私を穿つたびに、収縮する内壁に蛭魔が耐えていることも知らずに、足を絡めた。肌のぶつかる音、唾液の弾ける音。ふたりぶんの息遣い。部屋に充満する蜜月。こんなふうに愛し合える日が来るなんて、あの頃は想像もできなかった。

「妖一…」
「…あ?」
「ああ、私もう、ぁん、妖一なしじゃ、生きられない、よ」
「そんなん…俺もに決まってるだろ」
「んん、えへへ、」

 段差が内壁を削るようにひいていって、また奥深くまで突き刺さる。行き止まりを壊さんとばかりの勢いに、ああ、と声が漏れた。足を絡めて、離れないように。ぎゅうと蛭魔の体にしがみつく。

「あー、でる、」
「うん、ああ、いっぱいだして、」
「…るせ、」

 乱暴になった腰使い、子宮口すら突破しようとする強さで、蛭魔は震えて果てる。余韻に浸りたくて抱きしめたけど、キスをひとつくれて、すぐに離れていってしまう。荒い息を整えて、額の汗を拭った。

「妖一、いつかさ」
「…?」
「妖一のこども、欲しいな」
「は、産んでくれんなら、いくらでも中で出してやるよ」
「約束ね…」

 いつかみたいに、小指を差し出す。いつかみたいに、蛭魔が小指を絡めてくれて、もうそれだけで胸がいっぱいだった。がば、と起き上がって、処理をしている蛭魔に抱きついた。

「すき、だいすき、愛してる!」
「俺も…愛してる。なまえ」

 笑って、熱い体でまたキスをした。うそみたいに幸せな日々が、これからも続きますように。ためらいなく、好き、と言える幸せを、噛み締めながら、物語はハッピーエンド!