「そんなつもりじゃなかったのになあ」

部屋に散らばるCDや服を拾い集めては定位置に戻す。洗濯するものはドアの前に積み上げる。これ見よがしな忘れ物は迷うことなく広げたごみ袋に向かってシュート。
私に構いだしてからは軟派さもなりを潜めているし、ずっと散らかっていた部屋を今日初めて片付ける。こんなんで心動かされるようには扱われてないから気にもならない。

「なにが」

ベッドに座ってアメフト雑誌をパラ見しながら、阿含がダルそうな声を出す。地味に毎月分揃っている雑誌を並べながら、振り向きもせず。

「こんなヤツを絶っ対好きにならない」
「最初っから好きだったくせに」
「自惚れるのもいい加減にしてよ」

アーティストごとにCDをラックに収めて、阿含の部屋は見違えたように整理された。洗濯物を運ぶ前に、ごみ袋を覗いてワザと置いていかれた忘れ物を観察する。下に滑り込んでしまったものもあるけど、ありきたりなグロスや口紅、大きなピアス。色仕掛けが目的に見えるキャミソールなんかもある。

「最初っから好きだったのは阿含の方でしょ」

ごみ袋の口を結んで閉じて廊下に出す。洗濯物を抱えて部屋を出た。戻ってきても阿含はさっきのまんま。

「なまえ」
「なあに」
「こっち来い」

言われた通りにベッドに膝を載せたら、二の腕を思いっきり引っ張られた。読んでいた雑誌はテーブルに向かって投げられ、無事に着地している。
開いた足の間。阿含に背中を向けた状態でそこに座らされた。お腹辺りを片腕でがっちりホールドされたら、そんな気がなくても脱出不可能。

「ほんっとに、私のこと好きだよねえ」

頑丈な胸板に背を預けて、目を閉じた。私の定位置はとりあえず阿含の腕が届く範囲で、そこはわりと居心地がいい。眠たくなるくらい。

「…うっせ」
「かーわいー」

腹部にまわる手に手を重ねて、目を閉じて俯きがちなままからかう。その手が、内腿を撫でだしたから私は黙って手を払った。払われてもすぐに戻ってくるけれど。

「…なまえ」
「だーめ」
「なんで」
「くっついてたいだけ」

そう言いながら体の向きを変えた。両足は阿含の右足の上を通過して投げ出される。寄りかかるとちょうど右耳の辺りで心臓が震えていた。規則正しい音はさらに眠気を誘う。ひとつ舌打ちをされたから、ご機嫌取りに右腕を抱えてやる。

「そう簡単にさせたりしないからね」
「…ぁあ゙?」
「いままで連れ込んだ人たちと一緒にしないで」
「してねえよ」

バツが悪そうな顔をした阿含がなんだか可愛くて、口角が緩む。残念だけど、彼は私の。

「阿含は私のこと大好きだね」
「…なまえは?」
「私? 決まってるでしょ。阿含のこと、大好き」

目を見て言われるのに弱いのはもう知ってる。いまはもう、ちっとも怖くなんかない。

「だから、ちゅーだけならゆ、」

最後まで言い切る前に、言葉は吸い込まれていった。すぐに舌が侵入してくる。少し荒々しいのはからかい過ぎたからかもしれない。未だに残る羞恥心から目を瞑っていたけど、唇が離れていく感覚に瞼を上げる。

「…あ゙ー」
「なに」
「べっつに」
「やりたいんでしょ」
「…だったらなんだよ」

伸ばしてた足を引っ込めて折り畳む。太くて掴みきれない阿含の右腕を引っ張りながら、ベッドに背中から倒れた。私の両足は阿含の両足の下に滑り込み、咄嗟に両手をベッドについた彼は私を見下ろす。

「…おい、」
「いいよ?」

首に腕を巻きつければ、今度のキスは触れるだけ。