現在進行系の恋は、どうやら望みが薄い。
きっと、私みたいなのは嫌いだろうから化粧を薄くした。金色に近かった髪色も暗い栗色にして巻くのを止めたし、ギリギリまで短くしていたスカートも少しだけ長くした。爪を派手にするのを止めたし、携帯ストラップも減らしたし、鞄につけていたぬいぐるみのキーホルダーも外した。
それでも、私はあの人に似合わない。
「あっ、お、おはよっ」
「おはよう」
通学中の生徒たちがそこここに見られる歩道。
弟を介して何度か話したことがある程度とはいえ、盛大にどもってしまったのも無理はない。
幾ら高校が近いとはいえ、雲水くんは毎朝早くから朝練がある。遭遇するわけがないのに。
「今日は朝練ないの?」
聞いてから、しまったと思った。弟の方から揃ってアメフト部だとは聞いていたが、なんで知ってるんだって思われたらどうしよう。
さりげなく距離を詰めて隣を歩く。
それも、次の次の信号まで。
「定期試験だからな」
「あっ、そっか。うちも来週なんだ」
「阿含から聞いてないのか?」
「え? ああ、うん。全然、ていうか仲良いわけでもないし」
「そうか」
見てくれからすれば親しくなるのはあっちの方だろう。
確かに先に出会ったのは弟の方だったけれど、私が恋をしたのは顔しか似ていない兄の方だった。
雲水くんはどうやら、私たちの僅かな出会いを記憶していたようで挨拶には挨拶を返してくれるし、邪険にされることもない。
ただ、真面目を地で行く彼は、きっと私みたいなのは嫌いなはず。
どれだけ外見を変えたって、私は真面目とは縁がなさそうななりをしている。
「雲水くんはなんか、頭良さそうだよね」
「いや、それほどでもないよ」
「またまたぁ、私なんていっつも赤点ぎりぎりだよ」
少し笑った雲水くんにつられて、私も笑った。
けれど、話し方からして私は莫迦っぽい。というか、莫迦なんだけど。
ちゃんと勉強したらいいのかな、だとか考えているうちに、最後の信号。歩道は赤信号で、立ち止まる。
「阿含に教えてもらえばいいだろう」
「え?」
「勉強」
「ああ、いやいや。本当に、そんなに付き合いないから」
雲水くんが教えてくれたら良いのに、は言えなかった。
知っているのは名前と通っている高校、部活。メールアドレスも携帯電話の番号も知らない。聞けない。
この横断歩道を渡り切ったら、雲水くんは行ってしまう。
信号が青に変わる。
人波に流されるように、踏み出してしまう。
「俺が、教えようか」
「え、」
「今週なら部活がないから」
「…いいの?」
「俺は構わないが」
「…メアド! 交換しよ!」
「…ああ、そうだな」
横断歩道は渡り切ったけれど、歩道の端。赤外線ポートを合わせる。
手が震えてしまいそうだったから、しっかり携帯電話を握っていた。
「じゃあ、メール、してもいい?」
「ああ」
「うん。ありがとう」
「いや。…それじゃあ」
「ああ、うん! またね!」
その背中を見ていた。
友達に声をかけられるまで、ずっと。
正反対の道を友達と歩きながら確認したアドレス帳には金剛雲水という名前。
考えるのは、メールの内容のことばかりで、すっかり上の空。
とりあえず、大きな大きな一歩を踏み出せたらしい。