彼や彼に付随する全てが私のものになることはない。勿論、ひとつだってかけらだってならない。私はただの所有物でしかないことを、よく知っている。彼は沢山のものを持っているし、私はいつもそれに紛れて気づかれないし、大切にされるわけでもない。
だからといって、私ってなにだとか聞いてはいけない。例えここがガラクタで溢れて埃にまみれたダンボールの中でも、私は彼に所有されていることに意義がある。ある、はずだった。

「ポーカーしようよ」

ふたりきりの部室、響くのは指先がキーボードを叩く音。テーブルに散らばっていたトランプを片手で集めながら。

「妖一が勝ったら」
「…勝ったら?」

組んだ足を下ろして、久しぶりに合う目と目。心臓が痛い。口が渇く。けれどもう、決めたから。

「別れよっか」

何てことないような、軽い口調を意識して。上手じゃない、手つきでトランプを切る。返ってこない言葉。見れない目。
私はただ、手元だけを見ている。

「なまえが勝ったら」
「…別れない?」
「別れない、な」

差し出された手にトランプを載せる。長い指先が滑らかにカードを切っていく。私の運命は、やっぱり彼に委ねられてしまう。滑るように五枚のカードが目の前に配られる。揃えて捲り、広げたハンド。七が三枚、スリーカード。普段ツいていない私には、良すぎるくらいの役。
チェンジしようかと思ったけど、どうせイカサマをしているであろう彼に敵うとは考えられない。

「これで良いよ」

そう言いながら見上げる。口の端が裂けているように笑うその表情。ああ、好きだな。けれどもう、私のものじゃなくなるんだな。
最初から、私のものなんかじゃなかったんだろうな。

「後悔しないか?」
「…しないよ」

三枚をぱさりと捨て、ハンドをチェンジした彼が、長い指でカードを広げた。きれいに並んだハンドは。

「なんで、」
「ノーペアだ」

その目の奥を計りきれずに呆然とする私を急かすように、トントンと指先が机を叩く。震える手が、ハンドを広げる。

「スリーカード…」
「なまえの勝ちだな」
「どういうこと?」
「何がだ?」
「なんでイカサマしなかったの?」
「しなかったと思うか?」

意味が分からなくて、いつものように笑う目を凝視した。ふいとすぐにそらされたけれど。

「なまえが勝ったら、なんつった?」
「…別れない」
「つーわけだ」

咄嗟にチェンジされたカードを捲る。彼がハンドに残した右端の二枚を合わせて。

「ストレートフラッシュできてたんじゃん…」

無視して立ち上がる背中が滲んでいく。振り返らないけど、置いていくわけでもない。その微妙さに、いつも振り回されてきた。疑問符で埋め尽くされていく思考回路。私の必要性を尋ねたら、どんな理論が返ってくる?

「わけ分かんないよ…」

いつもみたいに背中を追うこともできず、私はパイプイスに座ったまま。溢れてくる涙に戸惑いながら。
きみのことばをまっている。

「大したわけなんてねーよ」

ドアにもたれかかる彼が、そこから動こうとせずに私を見たから。私は涙も拭わず、鞄を掴んで立ち上がった。