「まだウンウン言うとるんですか」

光の呆れた声が飛んでくる。私はそれを無視して鏡の中の自分とにらめっこをやめない。
小学生の頃から伸ばしていた髪を、切った。後ろ髪と同じ長さだった前髪は、斜めに分けて目の上で揃えて、後ろ髪も肩にかかるかかからないかくらいまで、ばっさりと。
何かあったわけじゃない。ただ、もうずっと同じ髪型で飽き飽きしていたのと、最近はボブが可愛いモデルが気になっていたからだ。光に聞いてみたら、案の定、好きにしたらええんとちゃいますか、と顔を上げることなく言われたのもある。

「…なんで切っちゃったんだろう…」
「またそれっすか」
「長い方が良かった!」

切って、数時間は気分も良かったのだ。新鮮で、あれなんか可愛いかも! とすら思ったのに。後悔が少しずつ押し寄せては、短い髪を触って溜息を吐いた。

「別に、それでもええじゃないすか」
「…やだぁ…良くない…髪が短いと、顔が可愛くないのごまかせないことに気づいた…」
「なんすか、それ」

きっと光のことだから、長くてもごまかせてないっすよ、とか言うんだ。鏡の中の自分と目を合わせて、また涙目になる。
光がのそのそと近づきてきて、私の後ろから鏡を覗き込んだ。

「別に、短いのは短いので、似合うとりますよ」
「え」
「なんか、アレやな。前髪あると、幼いすね、やっぱ」

振り返った先で、光が私の前髪に触れる。でも、だって、を繰り返す情けない私を一瞥して、ちょお待っとってください、と光は部屋を出て行く。その後ろ姿を見送って、肩を落としたまま、また鏡を見た。表情まで情けない私が、私を見ている。
前髪があると幼い。その言葉を反芻する。確かに、なんというか、先輩感が減った気がする。
光の言葉が嬉しくて、でもなんとなく寂しくて、顎の下でなくなる髪に指を絡めては梳く。幾度かそうしていたらドアが開いて、光が帰ってきた。

「これ、オカンと義姉さんが使うとるやつ、」

光はそう言いながら、ヘアアイロンのコードを挿す。手招きされて、私はもたもたと光の正面に座る。いつもと変わらない光が、いつもと変わらない表情で私を見る。それがなんだかすごく泣きたくなる。

「そない落ち込むくらいなら切らんかったら良かってん」
「だってぇ、ずっと長かったから、短くしたくなっちゃったんだもん」
「なら別にええじゃないすか」
「…でも長い方が良かったの!」
「短いの久しぶりなんでしょ、たまにはええんちゃいますか」

光が、私の髪をそっと摘まむ。丸いコテで髪を挟んでは小さく動かすのを、無言で繰り返す。私は下を向きながら、おとなしくしていた。光が慰めてくれるなんて、珍しい。そんなのはよく分かっている。
似合うとか、それでも良いとか、そんなんじゃなくて、可愛いって言って貰えないのが、またなんだか、私の中で引っかかって、どうにもうまく消化できない。
それでも光はお構いなしに髪を巻いていく。光の指が髪に触れているだけで気持ち良いのが、悔しかった。

「ほら、すぐできますよ」
「え?」

光はヘアアイロンを置いてテーブルに置きっ放しだった鏡を取って私に向ける。内巻きの、ふわっとしたボブヘアの私がぽかんとしている。

「長いのも似合うとりますけど、短いのも可愛えすよ」
「、」

かわえーかわえー、と面倒くさそうな声を出しながら、光は私の頭を撫でる。でもすぐにやめて、ヘアアイロンを片づけ始めた。まだ熱いであろうそれを部屋の隅の方に追いやって、あぐらで座る光が俯く私を覗き込む。

「キレーなオネエサン、が、カワエエオネエサン、になっただけやん」
「もー…思ってないことばっかり」
「思うとりますよ」
「ウソ」
「ほんま」
「…ウソ」
「ほんまやって、」

光が腕を伸ばして私の頭を優しく撫でる。それに拗ねていたら、そっとキスをしてきた。いつもこうやって、光の手のひらの上でうまく転がされているのがなんだか癪なんだけど、でも嬉しくって負けてしまう。

「…かわいい?」
「そう言うとるやん」
「やだ、ちゃんと言ってよ」
「可愛えすよ、なまえさん」

ちゅ、とまた唇が触れて、それが私のもやもやをうやむやにしてしまって、光がそう言ってくれるならなんだって良いやと思いながら、その胸板に手を添えた。







タイトルはポルノグラフィティより