「弦ちゃんさぁ」
彼の部活のない日曜日。弟の用事で家族全員が出払うのをチャンスとばかりに、私の家でおうちデートをしているのだけれど、当の彼はまったくそんな気がなさそうでつまらない。もくもくと宿題を片づけている。
弦ちゃんを途中まで迎えに行って、コンビニで色々買い込もうとしてもジュースもお菓子も食べないし。
「ねえってばぁ」
「全然進んどらんぞ」
「別にいーじゃん」
宿題なんてひとりでもできるんだから、彼が帰ってからちゃちゃっとやってしまえば良いのだ。せっかくふたりきりなんだから、もっとイロイロしたいことやできることがあるのに!
「いちゃいちゃしたい」
ぱきっと、彼の持つシンプルなシャープペンの芯が折れた。気にせずにその顔を見ていると、機械音がしそうなほどにぎこちなく彼が私を見る。眉間のシワに怯みそうになったけど、意外や意外、私はなんと、彼の彼女なのだから負けない!と意気込んでテーブルに乗り出す。
「弦ちゃん、普段忙しいんだからさぁ、こういうときくらいダメ? 良いよね? くっつくよ?」
「おい、なまえ、」
テーブルをずいっと引いて、隙間ができたところに入り込んで彼のあぐらの上に座る。彼はしばし腕をテーブルに乗せていた状態のまま硬直していたが、ひとつ舌打ちをしてから腕を伸ばしてシャープペンを置いた。
私は拗ねながらも引き剥がされないのを良いことに両脚で彼の幅のある腰をはさみながら、両腕でぎゅうと抱きつく。薄いTシャツ越しの体温が心地良くて、目を閉じてそれを満喫する。
「きもちー」
「…好きにしろ」
「ぎゅうしてくんないの?」
また彼は小さく舌打ちをして、持て余していた両腕でそっと私を抱き締める。
ハグどころか、私が誘ってねだったのだけれど、もうキスもセックスもしたのに、いつもこうだ。私は密着したくてしがみつくように抱きつくのに、彼は私の体に手を添える程度でしかない。
「ねー、弦ちゃんて、もしかして私のこと好きじゃない?」
「どうしてそうなる」
「なんか、好かれてる感じがしない」
「こういうことをするだけじゃないだろう」
「でもこういうことって、好きな人としかしないじゃん」
見上げた彼の、成熟した顔立ちにうっとりしそうになる自分を戒めるように彼を睨んだ。
「私、弦ちゃん大好きだよ。優しいし、カッコいいし、強いし、ちゃんとしてるし、良い匂いするし、触るのも触られるのも気持ち良いもん」
「…あのな、」
「なによぅ」
彼の手が私の後頭部に当てられる。せっかく見上げていたのに、肩口にぐいっと額をつけるように押さえられた。彼の大きな手が、本当に好きで、頭を押さえられているのに嬉しくってくらくらした。
「ねえねえ」
「…なんだ」
「今日、弦ちゃん呼ぶって言ったらね、ママがゴム買ってきてくれたの」
「…あのなぁ、」
「そこにあるよ」
「…なまえ、」
「まだ中学生なんだから、避妊はちゃんとしなさいって…わ、」
抱きついていたのを急に引き剥がされる。彼が前屈みになったせいで私は背中から倒れる気がして慌てて腕を掴んだ。でも私の背中には彼の両腕がしっかり添えられていて、それは杞憂に終わる。
「やだ、ちょっと…ごめんて、怒んないでよ、」
「…怒っているわけではない」
前のめりな彼と不安定な私は至近距離で見つめ合って、しばらくしてから状況を飲み込んだ私が恥ずかしさに目をそらすと、彼がようやく唇を合わせる。すぐ離れたけれど、心地良さに彼を見上げると、やっぱり眉間にシワを寄せていて、でも怒っているというより困っているような表情で、私は自分から唇を合わせた。
「…弦ちゃあん、」
「…煽るな」
「煽ってないもん、」
そう嘘をついて、私は彼の腕を掴む手を滑らせる。びくりと、小さく震えた彼をさらに煽りたくて太ももでぎゅ、と腰をわざと挟んだ。彼はさらに拠り所のない私の体を床に近づけながら、唇を合わせて、わざと開けた隙間から舌を滑り込ませてくる。
彼が手を離したら、私が手を離したら、私は背中から床に落ちることが避けられない体勢で、私はドキドキしながら彼とのキスに没頭する。
すき、うん、すき。すごい、すき。そう思いながら、腕から首に手を這い上がらせて、さらに彼と密着する。素肌の部分で触れ合うともっとドキドキするし、彼の体温が上がっているのが分かる。
「ね、ベッド…」
下唇だけが離れたタイミングでそれだけ言う。彼は無言で、でもしっかり私を抱えてベッドに乗る。横たえた私の上に覆いかぶさる彼が愛しくて頬が緩んだ。
彼の唇がすぐに首に触れて、私は顔をそらした。服の上から彼の手が私の胸に触れる。ふにふにと、彼の見た目に反する手つきに私の息が上がり始める。脱ぎたい、と言うと彼が体を起こしたから私は腰を浮かせてワンピースをたくし上げ、起き上がってすぽんとそれを脱ぎ捨てた。ベッドの下にワンピースを放ったところで肩を押されて仰向けに倒され、すぐに彼が私の胸元に唇を寄せる。ホックを外せば早急な手つきで下着を剥ぎ取られて、彼が私の胸の先を舐めた。
「ひゃあ、」
片方を舌で好きにしながら、もう片方は彼の手が触れる。じゅんとしてくる下腹部を感じながら、彼の頭に手を添えた。あまり日に晒されない、サラサラの髪が手に刺さる。
彼は一度口を離して、今度は手で触れていた方に舌をつける。あいている片手がウエストのラインをなぞりながら下がってきて、私は期待と羞恥と我慢の限界で脚をもぞもぞ動かした。
「ん、ぁう、げん、ちゃ」
「熱いな、」
私の体温が上がっていることを指摘したのだろう。それはそうだ。私の体はもう熱に浮かされている。彼は執拗に胸を舐めたり吸ったりしながら、ついに私の太ももをいやらしく撫でた。私の荒い息遣いが、部屋に充満している。
私の手とは比べものにならないくらい大きな手のひらに、太くて長い指が私の脚を這っている。それだけで、背中までぞわぞわが登ってきて、無意識に腰を浮かせたり沈めたり。ぎゅうと、頭を抱き締めたタイミングで、彼の指が下着の上からクロッチの部分をなぞった。
「あ、ん、んん、」
「…触るぞ、」
わざわざそう予告して、彼が私の最後の下着を下ろす。自発的に脚を動かして手伝い、彼はその僅かな布切れを、ベッドから落とされたワンピースの上に放った。
頭の中で待ち焦がれたその指先が、私の湿ったそこをくすぐるようになぞる。大きな声を出してしまって、別に彼以外に聞かれることはないのだけれど、羞恥に口を閉じた。胸への愛撫を受けつつ、彼の指が一番気持ち良い部分を行ったり来たりしているせいで、私はもう何も考えられずに目を閉じてそれを甘受する。
「は、ぁ、弦ちゃ、んん〜、」
「…なんだ」
「…きもちぃぃ、ああっ、」
抱きかかえていた頭が動き出したと思ったら、ぬるぬるに覆われていたそこに、指でない感触を捉えて声が出た。彼の、ざらつく舌が、私の足の間から溢れる液を掬っている。それから、少し上の敏感な部分を吸い出しては舐め始めて、私は刺激の強さに脚を閉じた。それは彼の頭を締め付けるにとどまるわけで、私は手探りで彼の手に触れながら、この快感に耐える。
「あー、ま、って、まってぇ、」
「…痛くないか」
「らいじょぶ、はぁ、ひもちぃ…」
目を閉じたまま喘いで、登りつめていくのを自覚する。私がダメダメ言っているのを完璧に無視し、腫れたそれを絶えず舐めながら指まで挿入してきた。
お腹側の方を撫でられるだけで彼に触れられているすべての快感が増す。喘ぎ声を抑えることすら忘れて、私は彼の手とシーツを強く強く握り、手の届きそうなそこに引き上げられていく。
「ねえ、も、ああ、ほんと、らめ、ぁん、らめらめ、イ、っちゃ、やぁん、」
「腰が引けてるぞ」
彼はそう言いながら、逃げる腰を捕らえて引き寄せる。速く小刻みに動く舌と、中で蠢く指に、ついに私はこの体を手放す。びくん、と大きく弾けて、脱力した私から彼が離れる。
呼吸を整えながら彼を見たら、着たままだった服を脱いでいるところで、反応しているそれが目に入った。
「…舐めて、あげよーか、」
「…今度で良い」
今度があるという明確な事実を噛み締めている私をよそに、さっき、そこ、と示したベッド脇の小さな引き出しから彼はゴムを取る。その太い指で器用にそれを膨らんだものに被せて、私の乾かないぬるぬるに滑らせた。指や舌とは違う硬さと質量に、彼の鍛えられた太い腕を掴む。
「挿れるぞ、」
「うんっ、ぁ、」
へこんだ部分を、その先がぐっと押し開きながら突き進む。足りなかったものが満たされる充足感に大きく息を吐いた。初めてしたときとは比べものにならないくらいの気持ち良さが、回数を重ねるごとに分かってきた。
「弦ちゃん、ぁ」
「痛むか?」
「ううん、ちょー、きもちいぃよぅ…」
緩く動いていた彼の腰が、焦るように素早く動く。出たり入ったりする動きに、快感の波が身体中に広がっていくのが分かる。
彼の首に両腕を絡めて引き寄せて、自分からキスをした。舌を激しく絡め合うだけで、だんだん思考力が低下してくる。
体の、あらゆるところが、単純に気持ち良い。
すべての悩み事や問題が、ぜんぶぜんぶどうでも良く感じられる、いまこの瞬間にこれ以上ない気持ち良さで満たされていることを幸せに思いながら、彼に私は抉られ続ける。私も汗ばんで、彼も汗ばんで、とんでもなく熱くて、でも鍛えている彼の動きは相変わらず強靭で、部屋にはお互いの息遣いと、体のぶつかる音と、液体が弾ける音が響く。
好きな人が私を好きで、それだけでも奇跡みたいなものなのに、好きな人の体やセックスまでが文句のつけようがないくらい私にぴったり嵌るなんて、もうほんとうに、私はこの人が好きだ。
長く続く刺激に酔ってうわごとのように、好き好き言い出した私を黙らせるように重ねるだけのキスをして、彼は一度私の体から抜けていく。その腕が促すのに従いながら、ベッドに膝をついて震える上体を伏せる。腰を持たれて、早く早くと焦がれる頭に、背骨を駆け上がって刺激が弾けた。
「んぁあ、あん、あ、」
「なまえ、」
お腹がきゅんと疼いて、私は彼に突かれながら一心不乱に喘ぐ。彼をしっかり受け止めたくて、腕で体を固定すれば奥に当たる感触に目の前がチカチカした。
ひっきりなしに声を上げるせいで、喉がからからに乾いている。でもたぶん、私の体で乾いている部分はいまそこだけだ。あとはもう、満たされに満たされて、潤いに潤っている。私と彼のぶつかる音が規則正しく響いて、とんでもなくやらしいことをしていることを、隅に追いやられた正気の私が思い出す。
でもそんなことはもうどうでも良い。彼のくれるこれだけが、私のすべてを占拠する。
「なまえ…」
「んぅ、んん、あ、ぅん?」
「イって良いか、」
「うん、ぃいよ、ぁん、らして、あぁ!」
速度を増したそれが、私を遠慮なく乱暴なくらいにいじめる。お腹に響くそれに目の前が白んで、彼を締め付ける部分がきつく震え出す。一番奥までこじ開けられた感覚に叫ぶように声を上げて、身体中から力が抜けた。彼のそれが、私の中で小刻みに動いている。被膜ごしに彼が白いものを放出したのだ。ずるりと抜ける感触に、少しだけ寂しくなる。
彼が私の脚を引っ張って、私はうつ伏せに横たわる。頑張って腕だけで仰向けに寝転んだ。
「弦ちゃん…」
「…無事か?」
無事に決まっているんだけど、もうなんかその言葉のチョイスが、色々考えた末にどうにかこうにか選び出されたものなんだというのもよく分かっているから、私はさらに嬉しくなる。無事だよ、と返せば、彼は私の額にキスをしてベッドから降りた。中で液体が揺れるその残骸を縛って、私が食べたお菓子のゴミを入れていたコンビニ袋にそれを捨てて、袋の口を二重に縛っている。
「きもちかった?」
私がそう聞くと、彼はぴたりと動きを止めてしまう。
「…そうだな」
「私、ちょー、きもちかったよ」
「見ていれば分かる」
彼は溜息をついて、でもとても優しい顔でそう言う。ふたりでシャワーを浴びようと提案したら、彼が丁重な手つきで私を起こしてくれて、また笑った。