そういえば隣がやけに静かだった。読んでいた本に指を挟んで左側を見る。花の形に折られた折り紙を散乱させた中になまえが寝ていた。
なまえの母親は買い物に行った。夕方とはいえまだ外は明るくて、バルコニーから差し込む暖かい日差しは眠気を誘うには十分。窓際に敷かれたラグも長い毛足が肌に優しい。
落ちていた折り紙を取る。大きい薔薇の中に小さい薔薇を詰めたそれは多少歪んではいるものの、確かに薄いピンク色の薔薇に見える。指先で拾い上げたそれを、なんとなしに、こちらを向いて眠っているなまえの髪に落ちないよう絡ませて載せた。
なんていうか、重傷。
寝返りを打てば落ちるだろうと決めつけて、それはそのままにしておく。読んでいた小説にはやっぱり折り紙でできた黄色い星を挟んでその辺に置いた。余っていた水色や青色の折り紙を折り出す。なんでこんなことをしようと思ったのかは分からないけど。ひとつ、またひとつとあじさいの花が作られていく。なまえはまだすやすや寝ている。昼寝なんかして夜もきちんと眠れるのか疑問に思いながらその寝顔を見ていた。あじさいの花を意味もなく生産し続けながら、小さい薔薇を解き折り方を確認して、ピンクの折り紙で薔薇も折った。暖色系の色が好きななまえだから当然残っている緑の折り紙で葉を作る。折り紙の本の上にあじさいの葉を載せ花びらを載せていく。
なんでこんなことをしているのか。その穏やかな寝顔をまじまじと見ながら、なまえに対する不可解な感情を思い出す。その不調に名があることは知っていたけど、なんとなく認めたくなかった。
「なまえ」
それは静寂に溶けた。特別に感じられるその言葉を、口に出すのすら躊躇われたけど。息をひそめて、それでも確かに。
「なまえ」
まさか自分にもこんな気持ちを抱く感覚器が備わっているとは思わなかった。手のひらでピンク色の薔薇を握るように掬い上げてなまえの上から降らせた。いつか、本物でやりたいとすら思う。俺は病気だ。
「なまえ」
辺りで物音はしない。玄関からもしない。うるさいのは耳元で鳴り続ける心臓だけ。丸まる背中の後ろに片手をついた。静かに静かに距離を詰めて。
「なまえ」
薄く開いた唇に。
「好きだ」
初めて触れた。