部活を終わらせて、ロッカールームで着替えながら私用の携帯電話を開く。メールが一件着ていた。
終わったらメールちょうだい、という簡潔な一文と添えられた絵文字。
今終わったとメールを送る。ついでに携帯をベンチに置き、着替えを再開した。
すぐにちかちか携帯が光り出す。
「はいはい」
画面に映し出された名前と番号は見慣れたもので、ネクタイを首にかけて傾げた首と肩に携帯を挟んで通話する。
ロッカールームにはひとりじゃなくて、電話を邪魔しないようにか周りの喧騒は少し遠くなった。
「妖ちゃん? こんな時間まで部活お疲れさま」
「おー、なした」
「夜ご飯食べたりした?」
「するわけねぇだろ。いま終わったばっか」
ネクタイを結んでブレザーに腕を通してようやく空いた手で携帯を押さえ、片手で荷物をまとめ始める。
電話の向こうは静かだった。
「今日さ、お父さんもお母さんもいないんだけど、一緒に食べない?」
「いいけど。うち来るか?」
「いいの?」
「おう」
「じゃあ行く!」
視線を感じて振り向けば、さっとそらされる顔を一睨みしてロッカーを閉める。
「実はねー」
意識を電話の向こうに戻す。
聞こえるのは悪戯が上手くいった子供のような弾む。
「いまそっちに向かってるんだー」
「…は?」
「もうちょっとで着くよ」
少し笑いながら、声はやっぱり楽しそうに跳ねる。
耳にすんなり入る声に悪い気はしなくて、迂闊にも口角が上がるのを自覚した。
「俺が嫌だっつったらどうする気だったんだよ」
「妖ちゃん、私に嫌なんて言ったことないもん」
「そーだっけか?」
「そうだよ」
すっぱり言い切られたのが、見透かされてる気もしたけど当たっているから仕方ない。
気づくように分かるようにずっと接してきたのだからそれでいい。
「スーパー寄ってこー」
「おう」
「食べたいもの考えといてね」
「おう」
「ていうか妖ちゃん、ちゃんとゴミ出しした?」
「した」
「洗濯は?」
「してない」
「えっ、着るもの足りるの」
「この前まとめて洗濯してったろ」
「ええー、じゃあ洗濯もしなきゃだ」
「おう」
「掃除は?」
「してない」
「…妖ちゃん、やればできるのになんでやんないかなあ」
溜め息混じりの呆れた声を聞きながら、お前を呼ぶ口実だとは言わない。
こんなことを考えてるなんて、女々しいと思うこともよくある。
けど、高校も離れたいま、幼なじみだなんて希薄な関係は黙っていたら自然消滅してしまう気がして嫌だった。
やればできるけど、して欲しいんだよ。
「あ、学校見えたー。もう着くよ」
「おう、いま行く」
「食べたいもの考えておいてね!」
「なまえの作るもんならなんでもいーけど」
「なんでもいいが一番困る」
「はいはい、考えとく」
「うん、じゃあ校門のとこで待ってるね」
「おう」
PWRボタンを押して携帯をポケットに滑らせる。
名前、とざわつくやつらに戸締まりを命じてロッカールームを出た。
最後まで名前を呼ばせないの難しい