上の空でいることが増えた。というか、部活のことに集中していて私に対して上の空でいることが増えたというのが正しい。中学のときから彼らを見ているのだし、アメフト部の部員が増えて実力をつけてきているのは嬉しい。だから、私のことを忘れてしまうのは仕方ない。
仕方ないんだけど、気になる噂を聞いてしまった。泥門のアメフト部のマネージャーが、美人で頭も良くてスタイルも良くて、キャプテンと付き合ってるらしいという、噂。キャプテンというのは確か、妖ちゃんだったと思う。肝心なところはらしいで済まされてしまっているけど、そこが私にとってとても重要で重大だった。

「…大丈夫?」

隣の席に座っていた友達が私の顔色を窺う。たまたま一年のときに隣の席だった彼女は、なんとたまたま阿含くんの彼女だった。そのせいもあり急速に仲良くなったけど彼女も私も、そのことは秘密にしている。

「うん」
「…なんか大丈夫って顔してないけど」
「なんか…なんか、びっくりしたっていうか」
「でもらしい、じゃん」
「そうだけど」
「なまえが、悪魔んち行って家事やってんでしょ?」
「…うん」

友達は妖ちゃんのことを悪魔と呼び、阿含くんのことはワンコと呼ぶ。なぜか。私はちまちまと箸で卵焼きをつついてから、口に運んだ。本当は、迷惑だったのかもしれない。当たり前にしていたけど、勝手に部屋に入るのも洗濯したりゴミ出ししたり掃除したりするの、本当は嫌だったのかもしれない。

「なんか変わったとこなかったの? 悪魔んち」
「…多分ない、と思う」
「じゃあデマだって! ていうか聞いてみなよ」
「…聞けないよ、そんなの」
「もう付き合ってるようなもんじゃん」
「分かんない…」
「じゃあ私、ワンコに聞いてみる」

ぱちん、ときらきらの装飾がされた携帯電話を開いた友達の手を掴んで止める。不服そうな表情ながらも、渋々携帯電話をしまうのを見届けて私はウィンナーを箸で挟む。

「…なんかさ、好きなの、私だけなんだと思う」
「…えぇ?」
「家政婦みたいなものなのかも、妖ちゃんにとっては」
「そんなことないって」
「ああ〜なんか泣きそう」

そう言って、片手で顔を隠した私の頭をよしよしと撫でる友達の手が優しくて、本当に心配そうな顔を見たらさらに涙腺が緩んだ。

「悪魔も悪魔だよねえ」

教室の端っこ、明るい茶髪の友達は手を動かしながら、きっと特に意味もなく昼休みに浮かれる教室を見渡した。

「男ならびしっと言えばいいのに」

うちのワンコはねえ、と話をそらしてくれて私はちょっとこぼれた涙をカーディガンの袖に染み込ませる。
それを見て、友達は手を引っ込めた。ワンコの話を聞きながら、ちまちま食べていたお弁当を膝の上に移す。延々と続く他愛ない話に頷いたり笑ったりしながら、これからどうしたらいいんだろうとぼんやり思った。妖ちゃんはどうしたいんだろう。どうするんだろう。