もこもこ靴下、フリースのパジャマ。目に優しいパステルカラー。濃いホットココアに凍らせた生クリームを浮かべて。両手で握ったマグカップはじーんと冷えた指先を温める。冷めるまで、じわじわ溶けていく生クリームを眺めていた。半分くらいがココアに滲んだ頃、口をつける。甘くて温かい。喉を滑り落りていくのが分かる。ガチャガチャと、玄関が開いて妖ちゃんが帰ってくる音。急いでマグカップを置いて玄関へ。
「おかえり!」
「ただいま」
風に擦られて赤く染まった頬に手のひらを当てる。冷えた指先がその手を握った。寒さに肩を竦めていた妖ちゃんが私を見下ろす。
「あったけえな」
「ココア飲んでたの」
甘いものが嫌いなくせに首を傾げて触れるだけのキス。
「あま」
そう言う口の端が楽しそうに上がる。
「ココア味?」
「そんなとこ」
「今日はお鍋だよ」
「おー」
フードに肌触りの良く空気に泳ぐファーのついた黒いコートに黒いジーパン。端正な顔立ちに、よく似合う金髪。黒髪もよく似合うけど。ファッション誌から抜け出たような妖ちゃんは本当にかっこいい。
「なに見とれてんだよ」
「ん、妖ちゃんかっこいいなーって」
答えずに、よしよしと頭を撫でる綺麗な手。神様は随分と贔屓して妖ちゃんを作ったらしい。照れてるのは言わないでおくけど。
「もう食べる?」
「食べる」
「ん。妖ちゃん着替えてる間に準備しとく」
テーブルに置きっぱなしのココアはもう冷めていて、後で温め直そうとキッチンに下げてラップをかける。カセットコンロを持って行って、鍋を載せる。椀と箸を持ってきていたら妖ちゃんが部屋から出てきた。
「なまえ」
ぴと、と長い爪を載せた指先が私の指先に触れる。低体温な妖ちゃんの指先は僅かながらも温かい。
「あんま冷えてねえな」
「暖房効いてるからかな。でも、ベッドに入ったら冷えちゃうかも」
「あっためてやっから気にすんな」
「ありがと」
冬が来ると末端が冷える私の指先を手のひらでくるんで、爪先に熱を流して、妖ちゃんは私を抱えて眠る。暖かい以上の心地よさは私を満たすけど。恥ずかしいからそれも内緒にしておく。
「座ってて」
水切りかごに伏せてあった揃いのグラスに麦茶を注いで。私を待つ妖ちゃんの横顔を、私だけが知っている。他の誰にも見せない表情も、感情も、全部全部。妖ちゃんは私に独占させてくれる。私だけのものだと妖ちゃんのその口が言う。気持ちは見えないけれど、目に見えるものに沢山の気持ちを込めて、妖ちゃんは私になにもかもをくれる。自主的にカセットコンロの火をつける妖ちゃんを見ながらグラスを載せたトレーを運ぶ。
「お待たせ」
「あー腹減った」
「うん、食べよっか」
「いただきます」
「召し上がれ。私もいただきまーす」
冬はやっぱり寒いけど、妖ちゃんにくっつく口実になるからもうちょっと寒くてもいいかな、と立ち上る湯気越しに目が合って、やっぱり幸せ。