ついつい朝ご飯を食べながらの会話に夢中になってしまった。急いで食器を下げて歯磨きをして飛び出す。余裕を持って用意していたからさしたる遅れはないが。足早に歩くも、待ち合わせには良くてギリギリ、悪くて数分遅刻といったところだろう。妖ちゃんはいつも五分ほど遅れて来るけど、もしかしたら今日は時間通りに着いているかもしれない。歩きながら手鏡でメイクの確認。鞄にしまうついでに、何度も確認した鞄の中も見る。巻いた髪を気にしながら待ち合わせ場所に向かっていると自販機を発見。いつもなら歯牙にもかけずに通過するが、公園近くの自販機でブラックコーヒーを買おうと考えた。待ち合わせに遅れた場合のご機嫌取りのつもりで。しかしそれで遅れては元も子もない。足を素早く動かしながら鞄を開けて財布を取り出す。運良く入っていた百円硬貨一枚と十円硬貨二枚を握って財布を戻した。待ち合わせ場所、公園内の噴水はすぐそこ。握りっぱなしだった携帯電話で時間を確認。待ち合わせまであと三分。どうにか間に合いそうだと胸をなで下ろして、携帯電話を鞄にしまう。公園の入り口付近に幾つか並ぶ自販機の前に立つ。妖ちゃんがいつも飲んでるアルファベット三文字のブラックコーヒー。端っこに見つけた自販機に硬貨を投入し、ボタンを押す。落ちてきたコーヒーを掬い上げて、噴水に近寄った。あの目立つ金髪は見当たらない。綺麗に重力に逆らう金髪に、全身黒なのにどこか涼しげな妖ちゃんはとても目立つ。すれ違う女の子が一度は視線を寄越すくらいに。ほっとしてベンチに腰掛けた。妖ちゃんにあげるブラックコーヒーを両手で握る。まだかまだかとそわそわしながら、前髪をいじったりスカートを気にする。幾つかある入り口を順に見ていたら、ちょうど反対側の入り口から妖ちゃんが来るのが見えた。立ち上がってスカートを払い、そちらへ向かう。

「妖ちゃん!」
「朝から元気だな」
「妖ちゃんはいつも通りだね」

黒いパーカーの下からは髑髏が覗いている。今日も相変わらずかっこいい。

「あ、これあげる」

ブラックコーヒーを片手で差し出したら妖ちゃんは驚いたようにそれを見た。僅かな表情の差異が分かるのも幼なじみ故。

「奇遇だな」

妖ちゃんはそう言って白い缶を差し出す。よく見たらカフェオレの文字。私が飲める、ミルクと砂糖の入ったもの。びっくりしている私を余所に、妖ちゃんはさっさとブラックコーヒーを取っていく。

「ん、」

促されて私も取る。こんな偶然ってあるんだと思ったら飲むのが勿体無い気もしてくる。妖ちゃんはブラックコーヒーのプルタブを、芸術品のような指で起こしていた。私はやっぱり勿体無くて鞄に閉まった。

「飲まねえの?」
「うん。なんか勿体無いから取っとく」
「わけ分かんねー」
「分かんなくていいよ」

それにしても本当に偶然で、妖ちゃんがどういう気分で買ってくれたのかは分からないけど、もし待ち合わせに遅れそうじゃなかったら私は買わなかっただろう。それと同じくらい些細なことで、妖ちゃんも買わなかったかもしれない。でも今日私は遅刻しそうになって、妖ちゃんもなにかしら気持ちの変化があって、こういう偶然が生まれたのかと思うと。以心伝心というかなんというか。

「にやにやしすぎ」
「んー? そうかな」
「たかがカフェオレ一本じゃねえか」
「妖ちゃんからしたらそうかもね!」

でも、妖ちゃんがくれたものだから。髪飾りでもピアスでもアクセサリーでもなく、ほんの気紛れが私の偶然と重なったのが嬉しくて仕方ない。

「はいはい」

そう言いながらも、公園を出た歩道の車道側を歩いてくれるんだから自惚れそうになる。妖ちゃんの隣を歩けるのは私だけなんだって。妖ちゃんが隣を歩かせてくれるのは私だけなんだって。