「ねむれない」
「あんなに昼寝するからだろ」
「だって寝ちゃったんだもん」
「黙って目え閉じてりゃ寝れる」

今日は妖ちゃんのお母さんもお父さんもいないらしい。それでお母さんが妖ちゃんをうちに泊めることにして、私のベッドに寝ることになったのだけれど。ぽかぽかの陽気に負けて昼寝をしてしまった私はまったく眠たくない。

「よーちゃーん」
「うっせえなあ」

ほら、と妖ちゃんは手探りで私の右手を握った。お布団の中にいるせいか、いつもよりそれは温かい。

「目えつぶってろ」
「うん」

それでも眠気は訪れない。ちらっと妖ちゃんを盗み見たら、すっかり寝ているようだった。怒られる心配もないから目を開く。暗い中でも夜目はきいて、高い鼻や薄い唇を見て取れた。ぺたんと垂れた髪はそれなりに珍しい。いっつも思ってたけど、かっこいいなあ。

「よーちゃん」

小さな声では彼は目覚めず、息を潜めていると呼吸しているのが分かる。繋いだままの手があったかい。妖ちゃんはすごくかっこいいから、クラスの女の子がきゃあきゃあ言う。けれどそんなのには見向きもしない。女の子どころか男の子でも相手にしない。そんな妖ちゃんなのに私とは仲良くしてくれる、と思う。一緒に学校へ行くのも帰るのも私だけ。来るのは私のおうちだけ。一緒に寝るのも私だけ、だと思う。なんとも自信がない。妖ちゃんは僅かに胸を上下させながらすやすや寝ているように見える。

「よーちゃん?」

ぴく、と細い眉が動いたから息を止めた。起きはしなかったから深く息を吐く。眉が動いたときに開いたのか、少しだけ八重歯が覗いていた。八重歯は尖っているけど、妖ちゃんは首筋に噛みついて血を吸ったりはしないらしい。どうしてかは分からないけど、その唇に惹かれて顔を近づけた。でもやっぱり恥ずかしくなって、急遽軌道を変えて頬に唇を少しだけ当てる。間近に見えた妖ちゃんに、したことの重大さに気がついて慌てて離れた。走った後みたいに、心臓がどきどきうるさい。妖ちゃんはなにもなかったかのように微かな寝息をたてている。恥ずかしさでいっぱいで、握った手に力を込めてその肩に額を当てた。どきどきが止まらなくて目を閉じていたら、妖ちゃんの匂いに安心したのかそのまま眠りに落ちてしまった。