電車と徒歩で十五分から二十分。なまえが泥門に到着するのは練習メニューを確認しているときかウォームアップしているとき。制服の違う他校生は目立つが、もう慣れたように帰宅する生徒の流れに逆らって。
「こんにちはー」
そこかしこで遭遇する部員共に挨拶をしたり少し話したりしながらカジノ兼部室へ。俺のロッカーに鞄とブレザーを詰めて、タオルとドリンクの用意を始めるのはいつものこと。
「あっ、妖ちゃん」
スカートのポケットを漁りながら、なまえは資料チェックをしている俺に近寄る。椅子に座っている俺と、目の位置を合わせるように屈みながら。
「ガム噛んでる? あ、ない? はい、あーんして」
「…なんだよ」
個包装を開けて、指先で摘んだ飴。備品を並べているために部員の殆どはグラウンドにいたが、近くにマネとチアがいたからかなまえは声を潜める。
「のど飴」
はいあーん、と繰り返したなまえに降参して口を開けた。微妙な味だが、まあ仕方ない。のど飴には美味しさを求めないなまえは、多分いつものをわざわざ買ってきたのだろう。
「…よく気づいたな」
「お昼に電話するまで気づかなかった」
「昼までは異常ナシだったからな」
自分の額に手を当てて、もう片方の手をなまえは俺の額に当てる。いまのところ熱はない。それをじっくり確認して、なまえは手を話す。
「最近、寒暖差激しいからかなあ」
「どってことねえよ」
「おうちでも忙しそうだし」
「…悪ぃな」
「そうじゃなくて」
なまえは困った顔で少しだけ笑う。いまですら誰にも気づかれていないというのに、電波越しの声でよく分かるもんだと感心した。けれど逆を考えたなら、俺だって間違いなく気づくだろう。
「手伝えることがあったら言ってね」
「おう」
「私、のど飴持って歩いてるから欲しくなったら声かけてね」
「ん」
「風邪薬も飲むこと」
「んな大袈裟なもんじゃねーよ」
「酷くなる前に治さなきゃだめでしょ」
「はいはい」
一発でこぴんを食らわして、なまえはタオルを取り込みにかかる。喉に蟠るものが少しなくなって、俺は腰を上げた。
ごめんこれだけ