35〜36巻




セナくんと鈴音ちゃんと、猛スピードで転がるように走る車のトランクの中で聞いていた。明らかに速度違反なスピードで蛇行運転をされたせいで体はバッキバキだし、どうやらふたりとも後先を考えていなかったらしく、私が中からトランクを開ける方法を知っていたから脱出できたのだけれど。近くにいた私を呼んでくれたふたりには感謝してもしきれない。

「うーん、寒いねえ」
「部屋で待ってろって言っただろーが」
「嫌、って言ったでしょ」

大和くんを追いかけてカジノに向かう妖ちゃんに、無理を言って付いてきた。暗い空と星より眩しいカラフルなネオン。露出された肩やデコルテをストールで包む。話がある、とは言えなかったし、話すことも特に考えていなかった。ただ、やっぱり私は妖ちゃんが好きだと思った。直向きで、がむしゃらに真っ直ぐ走り続ける、彼が。トップを取るためにもがいてるんだって、言い切ったそのときの表情を、私は安易に想像できた。どんなときだって諦めない。何があったって挫けない。ポーカーフェイスにすべてを隠して、余裕綽々なふりをしながら。そんな横顔を、いつも見ていた。ドンだとかいう人に啖呵を切った大和くんにも、妖ちゃんはまんざらでもなさそうに笑みを浮かべている。良かった、と思う。一番を欲して、もがいて走り続けているのは妖ちゃんだけじゃない。切磋琢磨し合える仲間が、妖ちゃんには沢山いる。それって、涙が出るくらい幸せなこと。

「なまえ」
「…ん?」
「あいつだ」

視線の先には、嫌に鼻の高い男の人が座っている。アメリカの誇るペンタゴン、妖ちゃんと同じポジションでその一角に座する、その人だった。繋いでいる手に力を込める。大丈夫だよ、私がいるよ。私が妖ちゃんを守るよ。そう伝わってくれたなら。妖ちゃんも全部見通しているように、強く握り返してくる。紛れ込んだ感動の再会に浸る間もなく、妖ちゃんはポーカーの卓についてしまう。大和くんの傍に立って、背を眺めながら聞き取れる単語を追った。賭けられる額が増すせいで、すぐに一騎打ちになってしまうが、嫌な感じが拭えない。祈るように手のひらを握れば、アメリカの司令塔に睨まれた。気づいた妖ちゃんの視線を感じたけど、私も人を小馬鹿にしたような目を睨み返す。それはカードが配られるまで続いた。
妖ちゃんに回ってきたフルハウスの手、ノリエガは勝ったとばかりに口角を上げていたけど。こぼれる二枚のチップ。読めない双眸。オールインに乗ろうとするけれど、二枚のクィーンが見えてなくて。

「降りだ」

気づいた指先は止まり、私は一息吐く間もなく、アメリカの司令塔を見る。驚いたように浮かぶ目の色に、やっと息をした。

「妖ちゃん、」
「…なんだったと思う」
「もしかしたら、フォーカードだったかも」

片手でチップを持ち、もう片手はポケットへ。その腕に、私の腕を絡ませて。ちらりと視線をやったら、なぜか目が合い先ほどより鋭く睨まれる。うちの妖ちゃんに敵うだなんて、百億年早いよ、と舌を出して笑ってやった。

「妖ちゃん、気づいてた? トランク」
「なんだ、なまえだったのか」
「あとセナくんと鈴音ちゃんも」

何のことだかという顔をした大和くんに事情を話すと、妖ちゃんにはない爽やかな笑みを漏らす。スリットは入っているものの、歩きづらいドレスに気遣って、ゆっくり歩いてくれるふたり。

「さすが、私の好きな人だなって、思ったよ」

きっと笑っていただろう。だから面白いのだと、笑いながら言っただろう。

「ずっと応援してるから、トップ獲りに行こう。みんなで」

みんなで、と言いながら大和くんを見た。察したように微笑みながら、賛同してくれる。妖ちゃんも、私も、この上ない幸せ者だ。




アメリさま、ありがとうございます!そしてすみません…