激しく捏造




ソファーに腰かけている妖ちゃんの、テーブルを挟んで正面に正座した。毛足の長いラグが少しだけ擽ったかった。私の思い詰めているであろう視線を受けた妖ちゃんはノートパソコンの液晶から顔を上げる。

「妖ちゃん、ちょっと真剣な話があるんだけど」
「…なに」
「いや、別れたいとかそういうのじゃないの。むしろ、これからもずっとずっと一緒にいたいから、だからこそというか」

怪訝の色は失せたものの、真剣な話の内容が読めないらしい。ノートパソコンを閉じてソファーに放り、妖ちゃんは無言で続きを促した。私は何度も考えに考えた言葉と、話の順を確かめながら。

「妖ちゃん、気づいてたよね? クリスマスボウルのとき…」
「……なまえが呼んだのか」
「うん。…実は、妖ちゃんに内緒で江梨子さんとお義父さんと、何度か会ってた」

膝に載せた手ばかり見ていた視線を怖々上げた。妖ちゃんは私から視線を外して、僅かに目を細めている。

「お節介かなとか、妖ちゃん怒るかなって何回も思ったの」

それでもめげずにその目を見詰め続けた。こっち見て、そう思って。やっぱり少し、怖かったから。

「最初は江梨子さんとふたりで会ったの。私が勝手に思ってただけなんだけど、やっぱり仲直りして欲しいって思ってて」
「…ん」
「でも、江梨子さんやお義父さんはどう考えてるのかも、妖ちゃんがどう思ってるのも分からなくて」

短い返事と共に、視線が交わる。千切れないように見詰め続けた。妖ちゃんはそれでもしっかり、それに応えてくれる。

「江梨子さんね、どうしていいか分からないんだって、言ってた。お母さんなのに妖ちゃんが何を考えてるか分からないって。…母親失格だって。私は、そんなことないですって言ったんだけど」

妖ちゃんの、意志を色濃く映した眉が微かに歪む。やっぱり。やっぱり、大丈夫だ。

「お義父さんもね、自分は妖ちゃんに嫌われてるんじゃないかって思ってるって。その、お仕事の、こととか、で」
「…ああ、」
「妖ちゃん、あのね、江梨子さんもお義父さんも、妖ちゃんのこと愛してるって。たったひとりの自分たちの子どもなんだから、すごく大切なんだって」

たまらなくなって、先に視線を泳がせたのは私だ。喉の奥が裂けるように鋭く痛むけれど、泣いたらダメだ。そんなことは分かっている。一度、深く息を吸って、全部吐き出した。

「妖ちゃんも、本当は江梨子さんとお義父さんのこと嫌いじゃないんじゃないかって、私ずっと考えてたけど、分からなくて」
「…いや」
「でも、これは私の勝手な想像なんだけど、妖ちゃんは接し方とか、甘え方が分からないのかなって。妖ちゃんがちっちゃい頃から、ふたりとも仕事忙しかったじゃない」

相槌も打ちづらい、あんまり認めたくない、そんな話を妖ちゃんは言葉少なながらも聞いてくれている。妖ちゃんのためにも、江梨子さんとお義父さんのためにも、私は思っていることを、考えていることを全部伝えたかった。

「だから、妖ちゃん、照れてるのかなあって」
「…なんでそうなんだ」
「うん。でね、思ったの。すれ違ってるだけなんだって。お互いがお互いを思いやってるのに、そんなの、悲しいよ」

堪えきれなかった涙が、一粒落ちた。それを皮切りに次から次へと涙が頬を滑っていく。まだ全部伝えきれていない。涙を拭って、また自分を宥めるように落ち着かせるように深く息を吐く。

「妖ちゃんは、お義母さんとお義父さんのこと、嫌い? 憎んでる? 恨んでる?」

沈黙が、広い部屋に響く。耳の奥で鳴り止まない、早鐘を打つ鼓動。核心に触れた、言葉に。

「そんなわけねーだろ」
「…本当にほんと? 気、遣ってない?」
「…ああ。本当に本当だ。なまえの言った通りだよ」

良かった。そう思ったら、緊張の糸が切れて本格的に涙が溢れ出して視界を滲ませる。押し殺しきれない声が沈黙を破り捨てて、妖ちゃんの息すら聞こえた。

「そんなに泣くなって」

来い、と妖ちゃんが膝を叩く。すぐさま立ち上がって、妖ちゃんの足の上に向き合って座った。ぎゅうぎゅうと抱き締めてくる腕と手。匂い。一番言いたいことが残ってて、私は顔を上げた。

「やっぱり、江梨子さんとお義父さんにも来て欲しいし。…結婚式」
「…すげー殺し文句」

やっと妖ちゃんが笑った。最初に江梨子さんと話をしたとき、ただすれ違ってるだけなんじゃないかって思ったとき、私はやっぱり泣いた。私を抱き締めて頭を撫でる妖ちゃんの優しい手は、泣き止まない私を抱き締めてくれた江梨子さんの手を思い出させた。




お義母さんは名前呼び