辺り一面銀世界とよく言うが、雪国は輝く白に埋め尽くされていた。運良く冬の快晴で、淡い色の空に白く光る太陽。こぼれ落ちてくる牡丹雪と、道のわきに積み上げられた雪山はその光を反射していて、視界のすべてが輝き目を眇めなくてはならない。
「なまえ、あんまはしゃぐなよ。転けんぞ」
「雪! すごいよ!」
「わーった、わーった」
落ちてくる雪を手袋に載せて観察したり、積もったままの雪を踏み荒らしたり、その冷たさを確認したり。いつもしっかりし過ぎているようにも見えるなまえが、こんなにはしゃぐのは予想外ではある。クリスマスボウルを手中に収め、部活を引退した冬休み。世話をかけっ放しだったなまえにいわゆる家族サービスを、と二泊三日の旅行を提案した。
「妖ちゃん…さむい」
「当たり前だろーが。冷凍庫よりちょっとあったけえくらいだし」
時期を選んだおかげで、旅館も街もあまり混雑していない。降り続ける雪が音をかき消し、すぐそこで響くなまえの足音だけが辺りを取り巻く。高台に建つ旅館からいわゆる温泉街へ向かって下る坂からは、街を縦断する川と、低い位置にある白に埋もれそうな建物、景観の奥に聳える真っ白な山が一望できる。すぐ下にあるはずの街からの音は雪に吸収され、この世にふたりきりという錯覚すら受けた。
「よーちゃーん!」
坂の折れ目に立ち止まって、なまえが手を振ったから、大股に坂を下る。太陽が眩しすぎて、視界の殆どを占める雪がちらちら瞬いて。ふ、と足元から顔を上げたらなまえを縁取って輝いているように見えた。滑らないように踏み締めながら、急ぎ足に近づく。捕まえようとポケットから出して伸ばした手に、手袋を外したなまえの冷えた手が触れた。
「つめてっ」
「妖ちゃん、あったかーい!」
頬と鼻頭を真っ赤にしてなまえは笑い、片方の手袋をポケットにつめて、冷えた指を絡めてくる。
「どうですか、妖ちゃん」
「? なにが」
「楽し〜?」
「わりとな」
そっか、となまえはやっぱり満面の笑みを浮かべる。横目でそれを見ながら、繋いだ手を自らのコートのポケットに入れた。人が通る道はそれなりに踏み慣らされているけど、しきりに降る雪は柔らかく積もって、踏み出す度にざくざく鳴る。
「ここには誰もいないから」
なかなか見ることのできない景色をぼんやり眺めながら、なまえは呟く。冷えた手と温い手は、恒常性をもって体温を分け合う。
「ゆっくりできるね」
しんしんと、音すらない世界で。僅かな熱を分かち合う。ここは天国も地獄も連想させはしないけれど、現実から脱却したと思わせるように幻想的であることに間違いはない。
「なまえもな」
世界にたった、俺だけを見て。
アメリさまごめんなさい…そしてありがとう!