エ雲の模様の入った老竹色の浴衣がよく似合う。
「温泉気持ち良かったねえ」
「偶にはこういうのも悪かねえな」
洗い立てのさらさらの金髪を下ろしているとまるで別人で、毎日見ててもどきどきする。帯が腰の高さを強調しているし、いつもより攻撃性が失われているせいで、すれ違う僅かな人も視線を向けるくらい。
「なまえも、家事しなくていいから楽だろ」
「偶にはね。ずっとだったら暇で暇で死んじゃうかも」
「違えねえ」
部屋に戻り、和室で備え付けのお茶を飲みながら、テーブルの上に手を伸ばす。察した妖ちゃんも黙って手を伸ばしてくれて、指先を絡めた。
「連れて来てくれてありがと」
「喜んでもらえたならなにより」
「うん、んふふ」
はにかめば妖ちゃんは目を伏せて微笑んだ。その口角の鋭さがセクシーすぎて手に負えない。そして私は彼を愛していて、彼も私を愛してくれているという。幸せを使い果たしてしまった気もするけれど、ふたりでいるだけでこの上ない幸せだからどうでもいい。なぜか懐かしく感じる畳の匂いや見慣れない浴衣姿が、ここが自宅でないことを思い出させる。
「なまえ」
「んー?」
「こっち、来い」
こういうとき、妖ちゃんが何をしたいのかはよく分かっている。座布団を持って妖ちゃんの隣へ移動。袖口から覗く、細くも筋肉質な両腕が私を引き寄せた。この時間が、私はとても好き。
「妖ちゃん」
返事は言葉ではなく、力を込めた腕から返ってくる。その腕に手を添えて、慈しむようになぞりながら。
「二年間、お疲れさま」
確かに悪魔的な面もあるし、その頭脳は限りを知らないと思わせるくらい深遠で人間離れしている妖ちゃんだけど、それでも色々な葛藤があったり強がったり、実はたくさんのものを抱えていたから。つまりは走り続けるにあたって、休息も大事なんだってこと。
「三人で始めて、武蔵くんがいなくなっちゃって、でもセナくんとかモン太くんとか、三兄弟とか小結くんとか雪光くんとか瀧くんとかが入ってくれて」
黙っている妖ちゃんの頭を撫でて、私も首を傾げて頭を寄せた。
「妖ちゃん、すっごく楽しそうだったよ」
雪が吸収してしまうのか、辺りは無音で私の声と衣擦れだけ。緑の中の澄んだ空気は、都会のそれで疲れた肺に優しく溶けていく。目に優しい景色は、さらに君を色づかせて。
「なまえが、いたからな」
妖ちゃんが腕を緩めたから、至近距離で見つめ合う。小さな瞳は力強く煌めいていた。
「妖ちゃんが、大好きなだけ」
じゃれるように、頭を撫でていた手を首にまわす。腰に添えられた手に導かれてキスをした。すべては、あなたを愛しているからなのです。伝わったかな?
旅行夜編…旅行関係ねえ…