からりと晴れたある春の日のこと。
時折吹き抜ける風はまだ肌寒さを思い出させはするも、まんまるい太陽が穏やかな昼下がり。

「妖一、どこがいい?」

無愛想な子を連れた母親が楽しそうに声をかけた。男の子は如何にもつまらなそうに、不動産屋のスタッフと母親から半歩離れて歩いている。そんなことには慣れているようで、母親は希望を羅列している。マンションが並ぶ閑静な住宅地。目を引くようなものも、面白いものもあるわけがない。久々に帰国した母親たっての希望をないがしろにすることもできず、ご機嫌を損ねないためでしかなかった。

「こちらですね」

目当ての物件が近づいたらしく、母親が熱心に聞いているそのマンションの説明を聞き流しながら。歩道の向こう側から歩いてくる母娘。車道側を歩く母親と手を繋ぐ女の子は多分同い年くらいだろう。仲良さそうになにかを話しながら、距離は少しずつ縮まっていく。ぼんやり眺めていたら、スタッフと母親が立ち止まった。母娘の顔がはっきり見えるくらいにその間は詰まる。長い髪を右側にまとめて結わえた女の子と目が合った。幼さ故かそらされることはなく、あちらの母親の方も気づいたように視線を寄越す。子ども特有の黒目の大きさに吸い込まれそうで。

「こんにちは」

どうやら向かいから来た母娘はこのマンションに住んでいるらしい。入り口付近で立ち止まっていたスタッフと母親に挨拶し、こちらもそれを返す。その後、あちらの母親が女の子に小さく何か言った。失礼やら遠慮やらを省みず、まだぼんやりとその子を見ていたら。はにかむように笑みながら小さな手のひらが、小さく振られた。

「ほら、妖一」

母親に促されて、小さく手を振り返す。深く笑った女の子が、自身の母親に笑いかける。なんだか目が離せなくって。

「妖一、ここにしよっか」

からかうような母親の声さえも蚊帳の外。お部屋を見てみましょうか、というスタッフの声が青い空に溶けた。