※弥鱈さんにぼこられる



触れた先からあなたに染まれ。革靴が腹にめり込む。内臓がせり上がる感覚すらいまは愛しい。盛大に咽せた私を無視して、弥鱈さんは勢いよくわき腹を踏んだ。くの字に折れていた体はそのまま床に腹をつけそうになる。それを阻むように弥鱈さんはまた腹を押し上げた。

「常々思ってはいましたが」
「う、」
「変わったご趣味ですねぇ」

腕に頭を載せて、散らばる髪の隙間から弥鱈さんを見上げる。視線が交わることはない。仕方なしに視線を下げた。弥鱈さんのスーツのラインにすら、私は欲情する。視線に気づいた弥鱈さんは、踵で私をうつ伏せにして、背中を踏みつけた。

「う、ぁ」

げほげほと咽せる間も、靴底は私の背骨を押す。少し足が浮き上がり大きく空気を取り込んだところで、寸分違わぬ位置に足裏が降ってきた。

「げほ、ぁう、みだら、さん」
「もっと、ですか?」

足が離れたから、私はまた腹を蹴りやすいように横向きになおった。肩で息を整えながら、頷く。弥鱈さんは長く溜め息を吐いた。

「私、このような趣味はないんですがねぇ」
「でも、いつも、ちゃんと、やって下さるじゃないですか」

見上げた弥鱈さんは、やっぱりつまらなそうな顔をしていた。それでも見上げていたら、やっと目が合った。黙って見つめ合うと、腹の中まで透けてしまう気がする。

「あなたのそんな姿を見ていると、加虐心が煽られます」
「弥鱈さんてやっぱりサドだったんですね」
「そのようですねぇ」

のんびりした語尾に僅かに力が籠もる。腹の力を抜けば、臍の辺りにつま先が沈んだ。そのまま、つま先はぐりぐりと内臓を抉る。弥鱈さんはかなり加減をしているから、本当に内臓が傷むことはない。肌に痣ができる程度の暴力だけど、痛い。でも、それが気持ちいい。弥鱈さんから与えられるからこそ気持ちいい。弥鱈さんから与えられる痛みは瞬く間に快感にすり替えられる。気持ちいい。嬉しい。気持ちいい。私の被虐心を弥鱈さんは完璧に満たしてくれる。

「なまえさん」

目を閉じて快感を享受していた私は、近くから声が聞こえて目を開けた。しゃがんだ弥鱈さんと目が合う。

「み、だら、さん」

片手で首を掴んで、弥鱈さんは私を少し持ち上げた。力の入らない腕で、浮いた上体を支える。唾液で汚れた口元を弥鱈さんは舐め、酸素を求めてだらしなく開きっぱなしの口に噛みついた。弥鱈さんは髪を掴んだりしない。

「私は、こっちの方が興奮しますけど」
「…喜んでお付き合いします」

弥鱈さんは唇を一舐めして私を抱える。柔らかくもなんともない簡素なベッドに落とされた私は、私を跨ぎネクタイを緩めながら口角を上げた弥鱈さんを見上げた。