※あたまがおかしい
用法用量を守っていないのは一目瞭然だった。瓶の中には沢山の薬が詰まっている。一番多いのは白い錠剤。それから黄みがかった錠剤やカプセル。今日の彼女は躁の方だった。
「珍しいねえ。こんな時間に来るなんて」
彼女は笑っている。ずっと。いつだか言っていた。鬱のときも辛いけど、躁のときも同じくらい辛い、と。彼女はいま、辛いのだろうか。躁と鬱の繰り返しの中で、それでも沢山分裂した自分の中にいるのだという。正常な自分が。躁も鬱も、異常だと感じ辛いと思う、正常な自分が。
「立会人さんって、こうやって会員とこによく来るものなの?」
「…さあ」
出されたコーヒーに口をつける。彼女はソファに横向きに座り足を投げ出していた。瓶を傾ける度に、ざらざらと鳴る沢山の錠剤。ぎっ、と蓋を開ける。手のひらにばらばらと薬を落として、口に含む。がりがり、と彼女の歯が錠剤を砕く音。用法用量を誤っているのは言うまでもない。
「…今日はなんの薬ですか」
彼女は笑った。笑うというには些か異質な目つきが、彼女が躁に侵されているのを示している。足と手の爪に綺麗に施された黒。黒い髪の隙間から見える銀色のピアス。晒された左腕の傷跡。丸い火傷の跡。生きづらいのは世界の所為なのか、自分の所為なのかと、煙草をふかしながらいつかの彼女も笑っていた。
「寝坊しちゃうおくすり」
着ている服も、長い髪も、爪も、ソファと同じく真っ黒だから、溶けて混ざって吸い込まれていってしまう気がする。死んだように眠る顔。薬物を大量摂取し胃洗浄を受けた後の、顔の白さといったら。病院に運んだ俺に向ける、視線といったら。ざらざら、がりがり。ごくん。
「…では、起こしにきましょうかねえ」
「弥鱈さんは世話焼きだねえ」
嚥下されゆく錠剤。それを全部、ビタミン剤やサプリメントに替えてやろうかと思う。
「明日は、」
自分の分のアルコールを、彼女は飲む。なだらかな喉が上下する。残念なことに、コーヒーはもうない。
「ゆっくり寝かせてね」
彼女は、寂しそうに笑った。