結局、私はまだ、彼が何を考えているのかは分からない。
デートに誘ってくれるし、行きたいところは私の希望が必ず通る。というか、弥鱈さんに恐らく希望はない。始めから私の意見ありきのデート。
私がお金を出すこともほとんどなく、泊まりでないときは送迎付きという待遇。
キスもセックスもするけれど、弥鱈さんが私をどう思っているかは聞けない。
私の希望を聞いただけ、彼には特に意見もない、なんてことだったら、私はどうして良いか分からない。
この幸せを継続したいと思うだろうけど、心から楽しむことはできなくなるかもしれない。
彼の優しさや心遣いを素直に受け取っていられる、いまの方が幸せだろう。
私の言う、好き、に応えてくれない度に、どこかにひびが入る。その度に、彼の優しさや心遣いでなんとかそれを埋めている、いま。
少し遠くまでドライブした帰り、無音の、車内。ラジオとか、結構好きな方だけど、聞かれないから、言えない。
運転中の横顔はいつも通りで、ただ両手両腕だけが滑らかに動く。
かっこいいなあ、て本当に自然に思いながら、見つめる。
なんか、夢みたいだ。

「…見過ぎじゃないですか?」

信号で止まって、彼がこちらを向く。たぶん、最初の頃より、優しい表情になった。
いまも、そう。目尻の感じが、なんか、ちがう。

「だって、弥鱈さん、かっこいいんだもん」

切ない気持ちを、なんでもない言葉にのせる。

「彼氏だなんて、夢みたい」

冗談みたいに、本当の気持ちを吐き出して、またいつも通りに、笑いたい。

「焼きつけておかないと、いつ目が覚めちゃうか、分かんないでしょ」

そう言って、笑う。
青信号で発車して、夜だからか郊外だからか、車が少ない道路をするする進む車。ちょっと良いホテルに泊まって、明日もデート。
非日常に、胸が踊る。
星空を見ていたら着いて、車を入れて、少ない荷物を持って、スムーズにエスコートされながら最上階の部屋に着く。
エレベーターで声は出さずにはしゃいじゃったけど、弥鱈さんはいつも通り。
ホテルを取るのはいつも弥鱈さんだから、着くまでグレードは分からない。けれど、弥鱈さんはいつも眺めが良くて広い部屋を取っていてくれている。きっと高いんだ。
ドアを開けてもらって、促されて中に入る。ストラップを外してサンダルを脱いだ。
弥鱈さんが、ドアを閉めて鍵をかける、音。

「わ、きれい! ね、弥鱈さ、」

振り向いたときに、体をそのまま壁に押し付けられる。
片手で両手首を取られて、額がぶつかりそうになるのを、頭を反らせて避けた。

「ひゃっ、え、弥鱈さん、」
「…なまえさん」

耳元で名前が呼ばれて、スカートの中に手が入る。
抵抗したくても、手首は押さえられてるし、肩で肩を押しつけられて、動けない。
はいていたストッキングの、足の付け根の部分を、指で破った彼は、さらに大きく穴を開けて下着越しにそこをなぞる。

「やだ、まって、弥鱈さん、なんで、」

彼の意図が汲めなくて、掴まれたままの手首を振ってみるも、さらに強く掴まれて壁に当てられるだけ。
よく分からなくて、そんな状態じゃ嫌なはずなのに、彼の指先にじっとしていられない。

「やだ…弥鱈さん…やめて、なんか言って、」
「なまえさん、」

唇が耳に触れて、震えたときに、噛まれた。
痛い、ような。

「これ、夢だと思いますか?」

布越しの、もどかしい感覚。
耳の噛まれた感触が響いて、尻を彼に当てるようにしてしまうのが恥ずかしい。

「なまえさん、」

下着の横から、指先が浸入してくる。
焦れていたそこはたぶん、ずっとこれを待っていた。

「…ああ、ぐちょぐちょですよ」

耳に直接注ぎこまれるような声が、吐息が、私の腰を砕けさせる。
分かってるから、恥ずかしいから、言わないで。
顔を伏せて、羞恥に耐える。
それでも、指先が表面をなぞるだけで、腰が揺れる。

「どうして、こんな、弥鱈さん、」

ベッドに行きたい、までを言えずに、彼が首筋を噛んだ。
もう痛いすら、痛いと感じられなくて、開きっぱなしの口からこぼれそうになった唾液を飲みこむ。
肌をなぞるだけだった指が離れて、太ももで拭われる。
これで終わるのかと思って、大きく息を吐いた。そのときに、僅かに音がして、私はぴたりと止まる。
ベルトを外している、音。

「弥鱈さ」

首でだけ振り向いたちょうどそのときに、かたいかたいそれが、何の前触れもなく、私を押し開いていく。
濡れていたそこは、彼をそれなりにすんなりと迎え入れてしまって、止める間もなく声が喉を駆けあがった。
体位のせいか、足が震えてうまく立てないせいか、すぐに奥まで当たって、太ももに液体が滑るのを感じる。
ゆっくり動き出す弥鱈さんに、されるがままでいたけれど。

「あの、ぁっ、もしかして、」

避妊してない、のに気づいた。絶対に、つけていない。そんな時間がなかった。
ますます不安になって、下を向く。
弥鱈さんが、お腹に手をやるのが見えた。服越しに、へそから下に向かって、ゆっくり、撫でる。

「できたら、どうします?」

やっぱり。
何もかもが怖くなって、何も言えない。
できたら、どうするんだろう?何をしなくちゃいけないんだろう?
ママになんて言えば良いんだろう。仕事は? 病院は? 他に何がある?
ぐるぐると考えに捕らわれて、黙った私に、弥鱈さんは、たぶん少し笑った。

「なまえさんの、ご両親に挨拶しなければなりませんね。仕事、辞めても良いですし。ああ、新居も探しましょうか」

楽しそうな、声色。
喘ぐことすら忘れていた私は、ゆっくり振り向く。
優しい、目と、目が合った。

「それ、って、」
「そうしたら、夢なんかだと思わなくなりますか?」

何も返せなかった私を責めるでもなく、弥鱈さんはまたゆるゆると私のお腹を撫でて、できたら良いですね、と言った。
のんびりした動きが、逆にもどかしくて、私は首を戻して壁を向いて額をつける。
夢じゃないんだ。私、ずっと、目が覚めてたんだ。
弥鱈さんは、結婚してくれるって、言っているのではないか?
でも。

「…私、もうちょっと、ふたりでこうしてたいぃ…」

手首を押さえていた彼の手に、額を当てた。
緩やかな刺激を受けつつ、体を落ち着かせたところで、いささか乱暴に手首が解放される。浮いた額を支えきれずにぐらついていたら、入ったまま、弥鱈さんが私を動かした。

「わ、」

向き合って、壁に背中を当てさせられて、びっくりして肩を掴んだら、すぐさま唇が塞がれる。好き勝手する舌に翻弄されていたら、足を抱えられて宙に浮いた。
よりどころのない怖さに、彼に抱きつく。
それと同時に激しく突かれて、下腹が痺れた。
壁に押しつけられながら、揺するように奥まで入りこまれて、でも口が塞がれているから、息のような声しか出ない。
弥鱈さんの段差に中を擦られているとすぐにダメになりそうで、さらに腕に力をこめた。

「んふ、んー、んーっ」

目の焦点が合わなくて、目を閉じて、体のすべてを彼に預ける。
吐き出す直前の、激しい動きに、抱きついてガクガク震えていたら、弥鱈さんが一番奥で止まる。
その小刻みの痙攣が、隔たりがないと分かりやすい。
搾り出すように緩く、動いて。押しつけられた、唇が離れた。

「あ、なかで、でてる、」

温かいのが、広がっているような感覚。抜かれながら、その温かいのが伝っていくのも、初めての感覚で、足が震えた。
ゆっくり下ろされて、肩に掴まりつつ、ちゃんと立つ。
全部私の中から抜けていったけれど、なんだかそれは幸福感をかきたてる。噛み締めていたら、とろりと液体がこぼれてくる感覚。

「え、わ、どうしよ、垂れてきちゃった」
「ついでにシャワー浴びれば良いんじゃないですか」

私の鞄から勝手にティッシュを出していた弥鱈さんが、ことも無げに言う。
こんなこと初めてされたんだから、どうして良いか分からずに、とりあえずストッキングと下着を脱いだ。
スカートの裾を引き上げて覗きこむと、太ももに白いものが垂れていた。
弥鱈さんに、ほんとうに全部全部、征服されたみたい。

「…誘ってるんですか」
「え? あ、いや、チガウチガウ」

シャワー浴びてくる、とそこを気持ち締めながら、バスルームを探す。
部屋を探索して景色を楽しむ前にこんなことになるとは。
広いバスルーム、体を流してみるけれど、のんびり垂れてくるこれはどうしたら良いのか。すぐに全部出てくるのだろうか?
弥鱈さんは、私を好きなんだろうか?
分からないけれど、私を孕ませて養う意思はあるらしい。
お腹を、手でなぞる。
時期を考えると望みはなさそうだけど、結構、幸せだったと思う。
好きだなあ、と思った。
弥鱈さんて、聞かないようにしていたけど、何をしている人なんだろう。
どれくらい稼いでいるんだろう。
こども、嫌いじゃないのかな?
深く沈んでいたところから上がってきたら、洗った髪からしずくが落ちる。

「なまえさん」

顔を上げると、曇りガラス越しに、ジャケットを脱いだ彼の背中が見える。

「はい」

押し黙る、よく見えない背中を、見つめる。
いま何を考えてるの?
何を言おうとしてるの?

「…私は本当に、そうなっても良いと思っていますよ」
「…そうなっても?」

私の声だけが、少しだけ響く。
彼の声は、少しくぐもって聞こえる。
はっきり、言って欲しくて。

「…あなたを妊娠させて、結婚することになっても」
「妊娠、しなくても、良いですか?」
「良いですよ、勿論」

浴槽から飛び出す。滑らないように気をつけて、曇りガラスを押し開く。
振り向いた弥鱈さんの、目を見た。
濡れたままの腕を、その首に伸ばして。

「嬉しい」

頬に、頬を当てる。
乾いた肌。抱き留めてくれる腕。
ワイシャツが濡れるのも気にしないで、引き寄せられる体。

「私のこと好き?」

やっと、聞けた。

「好きですよ」

その声が、好き、をかたちどって、私はやっと、ちゃんと笑えた。






お互いが既成事実を作っちゃおうとしてたんだけど、この単語入れられず。
タイトルはぽるのぐらふぃてぃから。