明るいうちから出かけるのは、月に一度あるかないか。少しラフな私服の悠助さんと手を繋いで駐車場を出る。夏物を見に行きたいと言っていたのを覚えていてくれたらしい。デパートは、人で溢れていた。悠助さんの手をひいて、エレベーターに乗りボタンを押す。さりげなく、私を壁側に立たせてくれる悠助さんに少しだけくっついた。

「混んでるね」
「迷子にならないでくださいね」
「ならないです!」

窮屈なエレベーターを降り、目当ての店を目指しながら、繋いだ手をぶんぶん振る。悠助さんは少しだけ口角を上げた。新作の洋服を着たマネキンが並ぶ店に入る。店員の明るい声が飛ぶ。店内は夏を先取りした明るさと涼しさを纏っていた。どれがいいかな、とか、これ可愛い、とか言いながら店内を巡る。

「なまえさん」
「なに?」

尻ポケットから出した、分厚い黒革の財布を押し付けられる。

「え、いいよ。お給料出たばっかりだし」
「遠慮せずに、これで好きなだけどうぞ」

そう言って、悠助さんは店を出て行く。やっぱりこういうところには居づらいんだろいか、と思いながら、財布の中を見た。随分分厚いし重い、と思ったら、万札が一センチ弱ほど入っている。私が、カードで買い物するのは好きじゃないと言ってから、悠助さんは現金も持ち歩くようになったからだ。財布を閉じて店内をまわっていたら、夏物を着こなした店員に話しかけられて、今夏のトレンド、と勧められたものをいくつか買った。不似合いな財布から、もたもたと小銭を出す私を見て、少し派手な店員が話しかけてくる。

「あ、もしかして、彼氏さんのですかあ?」
「そうなんです。いいって言ったんですけど」
「いいですねえ〜、羨ましいです」

愛想笑いで交わしながら、会計を済ます。通路まで送ってくれた店員に、また来ます、と言って辺りを見渡す。よく行くショップをいくつか巡り、左手が重くなり出す。悠助さんは見当たらない。財布を大事に握って、鞄から携帯電話を取り出した。通路の端に寄って、発信履歴の一番上の番号を押す。数コールで電話は繋がった。

「もしもし? 終わったよ、いまどこ?」
「…喫煙所。いま行きます」
「分かった、その辺ぶらぶらしてる」
「迷子にならないでくださいね」

さっきと同じ声音で悠助さんが少し笑った。私は、ちゃんと見つけてね、と言って電話を切る。系統の違う店のマネキンを眺めながら、ふらふら歩いていると、向こうから悠助さんが歩いてきた。

「これ、ありがとう。使わせてもらいました」
「ん」

財布を悠助さんに返す。片手で受け取った悠助さんは、怪訝な顔をして財布を見、私が持つショップの名前の入った紙袋たちを見た。

「…気を遣わなくていいんですよ」
「でも…それ悠助さんの稼いだお金だし…」
「なまえさんの為に稼いでるんだから、構いません」

そう言って、悠助さんは財布を尻ポケットに戻し、私の手を取った。

「えー…、じゃああそこ行ってもいい?」

指をさした先を見た悠助さんは見るからに渋い顔をした。少しだけ眉間に皺を寄せて、無言で私を見る。

「悠助さんの好きなの、買ってもらいたいなあ」
「…分かりました」

にこにこ笑う私を見て、悠助さんは折れた。それから、さりげなく左手の荷物を持ってくれる。乗り気じゃない悠助さんの手を引っ張って、私は意気揚々とランジェリーショップに入った。