「悔しい…」
シャワーを浴びてきた彼の背中を見ながら呟く。先にシャワーを使わせてくれる、その気遣いのようなものを感じながらもいつも通りの背中になんとも言えないもやもや。
ぬるい掛布にみのむしのように絡まっていたら、弥鱈さんが軽く溜息を吐いた。
「今度はなんですか」
こうやって、反応してくれるのも気遣いのようなもの、そのに、なのだ。分かってる。分かってる。
ボクサーに、黒いシャツ。無造作に着ているだけなのに、ああ、かっこいい。こうやって、私ばっかりが、積み重なる。
「なんか…なんか、私ばっかりじゃないですか」
「はあ?」
「私ばっかり好きで、私ばっかり気持ち良くなってる」
「また面倒くさいことを」
むっと眉間にシワを寄せて目を細める。弥鱈さんは、こっちを見もしないで、わしゃわしゃと濡れた髪の水を切る。
「だって弥鱈さん、するとき、私に何にもさせてくれないじゃん」
「…少し黙ったらどうですか」
「弥鱈さんが私にするばっかりで! それじゃ弥鱈さん気持ち良くなれないですよね?」
溜息とともに、やっとこちらを向く、黒い目。
その強さに、ちょっと怯む。
なによう。そんなに私に触られたくないのか。
「したいんですか」
「…口でとか?」
「口でとか」
「…たまには…?」
「じゃあしなくて良いでしょう」
「でもお、」
「別に私は、なまえさんが感じてる顔を見るだけで充分ですし」
「…やだ、ちょっと!」
みのむし、な私から掛布をぺらぺらめくって、もぞもぞ隣に入ってくる体から少し距離を取りながら、言葉の意味を反芻する。
なんだそれ???
「やりたいようにさせてくれれば、それで良いですけど」
「…いやー、うん、じゃあ良いです…」
これ以上突っ込んじゃいけない気がする。
確かに、私はされるがままで、弥鱈さんはしたいがまま、だ。
それで、良いなら、良いけど。うん。
仰向けの横顔を見つめる。目の辺りが窪んでて、鼻が高い。
おとこのひと、っぽい顔立ち。
額に乗せた手も、大きくてかさかさしてて骨っぽくて、私のとは違う。
じーっと見てたら、黒い目がこっちを向いて、その手のひらが私の目を塞いだ。
「見過ぎですよ」
「えー」
ちょっと笑って、その手にすりつく。
いーんだ。こうやって、できてるだけで。
私ばっかり好きでも。
気遣いのようなもの、を探して集めて数えて、幸せを噛み締めたい。
「なまえさん」
呼ばれたから、両手でその手を下げる。
目が合ったら額に唇が触れて、期待しながら目を閉じると、その通りに唇にもそれが触れた。
そのさん、をカウントして、上がった口角を、それごと食べようとする彼を、目を開けて見る。目が合って、嬉しくなって、また笑った。