彼女にはヤダヤダ期がある。
因みに、これは俺が名付けた。彼女は知らない。
主に月経前のイライラに耐えた後、月経時にやってくる。
普段、わがままを言わず自分を律し、女性特有の感情について我慢を続ける彼女が、限界を迎えたからだろう。
不機嫌な表情を隠さず、無口になり、動かなくなる。
体が重くだるく痛いというのも理由にあるのだろうが。
俺が構うと、擦り寄りたいのを我慢してされるがままになっているようだ。
そして、あれが食べたいこれが食べたいという我慢していた欲求を告げられる。
食べるだけ、といっても大して食べられないのだが、食べたその後のわがままですら、かわいく思えるのだからしようがない。
「ねえ」
「はい」
「髪、巻いて」
「いいですよ」
お風呂に入って、髪を乾かしたばかりの彼女は、どこにも行かないのにそう言う。
けれど気にせずに、彼女愛用のカールアイロンを持ち出した。
膝を抱えて座り込む隣に胡座で座り、温めている間に簡単にブロッキング。
ヤダヤダ期の彼女は動かないからやりやすい。
茶色い髪を一房ずつ取って、巻きつける。少しそのままで、外す。
無言で、その動作を繰り返して。
「なんでわたし」
「はい?」
「わがままばっかりー」
「そうでもないですよ」
俯こうとした額を手のひらで押し上げる。
嫌そうな表情も気にしない。
彼女は頭を動かさないようにしながら、こちらを見た。
「嫌いにならない?」
「なりませんよ」
「ほんと?」
「嫌いになって欲しいんですか?」
むうっ、と険しい表情。
「やぁだあー」
「動くなって」
頭を振り出した彼女の、頭のてっぺんを手のひらで抑える。
「きらいにならないで」
「ならないって言ってるだろ」
呆れて言えば、捨てられた子犬のような目。
気にせず、新しい髪の束を巻きつける。
「私ね、」
「ん」
「バカな女になりたくないの」
「知ってる」
「すぐ感情的になったりとか」
「うん」
「生理に振り回されたりとか」
「うん」
「自分のことばっかりとか」
「うん」
「いやなの」
「知ってる」
「なのに、」
「…」
「いまのわたし、すごくいやなわたし」
ため息をひとつ、俺が吐く。
顔色を伺うような、下がった口角。
「かわいいよ」
無言。
「かわいい」
「…やめて」
「はいはい」
くるくる巻かれた髪が増えていく。
彼女の、些細なわがままと、別に気にならない、俺。
そのわがままでさえ、僅かな労力や安価な菓子、ジャンクフードなんだからかわいいものだ。
気を遣ってるのだろう。
俺にしか言わず、見せない、それが、27日周期で訪れる、愛すべきヤダヤダ期。