私はどれだけあなたの役に立てているんだろう。
「最近、浮かない顔してるね」
「そう?」
「うん。なにか、あった?」
「なんにも、ないよ」
信じていない、そんな表情をしてる。お風呂上がりの額にあなたは口付けをひとつ寄越す。大きな手のひらが肩に回った。身体を傾けたらあなたが支えてくれる。いつだって、あなたが。
「俺には言えない?」
優しい声音が底に向かってゆっくり沈んでいく。できれば黙っていたいけど、これがすれ違いの原因になるのは、もっと嫌だった。肩に回された手に、手を重ねる。
「…私」
「うん」
「勇くんの役に立ててるかな」
思ったよりも小さい声だった。勇くんの反応を伺っていたら、あろうことか、勇くんは少し笑った。それからまた優しい顔をする。
「なんだ、そんなことか」
そんなことって、どんなこと。勇くんと私がそれぞれ持っている秤はどれくらい、差があるのだろう。同じシャンプーの匂いが、くしゃりと重なる髪から香った。勇くんの額は温かい。
「勇くんは、いっぱい頑張ってて、よく家事も手伝ってくれて、でも私は」
「なまえは」
優しい目は優しく伏せられる。肩に回された手に力が込められ、私は勇くんの胸に顔を埋めた。慣れない。どきどきする。こんなにも、近い。
「なまえは」
空気の振動を耳朶で感じられるくらいの近さで、勇くんは繰り返した。あなたの発する声に特化した鼓膜は、どんな小さくてもひとつ残らず拾い集められる。
「傍にいてくれるだけでいい」
模範解答、だと思ってしまった。
「それに、ご飯作って、洗濯して、掃除して、毎日行ってらっしゃいって言ってくれて、お帰りなさいって言ってくれるなまえのどこが役に立っていないんだい」
「勇くん」
「俺は、なまえが俺のために考えた飯を食えるの、幸せだよ」
「…勇くん」
「それだけで、幸せだ」
模範解答なんかじゃない。いつだって勇くんは、私を見ていてくれている。私が勇くんを見ているように。
「だから、役に立つとか立たないとか、言うなよ」
「うん、ごめん」
「分かればよし」
よしよし、と手のひらが頭を撫でる。
「あ、そうだな、でも」
「うん?」
「そろそろ子供、欲しいなあ」
予期せぬ言葉に熱が上がる。勇くんは笑って、真っ赤だよ、と言った。
「っうーん、頑張る…」
「うん、今日とか?」
「えっ今日!?」
そっと額に唇が触れて、私はこっそり勇くんのシャツの裾を握った。
ショックに負けない