緩やかに意識が浮上して目が覚めた。よく寝たおかげか、寝起きにしては頭が冴えている。左側が少し温かくて目を遣る。自分に寄りかかるようにくっついてなまえが寝息を立てていた。キャミソールの肩紐が落ちていて、さりげなく戻す。誤魔化すように時計を見れば、九時を過ぎたところだった。昨日は無理をさせたし、今日はオフだし、もう少し寝れるだろうとなまえを起こさないように体勢を変えた。身長差があるから顔が近いのに慣れていない。片腕で抱き抱えれば、髪から柔らかい匂いが揺れた。ベッドは人肌に温かくて、抱えたなまえからは甘い匂いがして、胸が締め付けられるようで目を閉じた。

「ん、んー」
「…起こした?」

もぞもぞとなまえが腕の中で動く。ぱっと顔を向けられて心臓が跳ねた。長い睫毛の、本数まで数えられそうだ。

「ううん、起きた」
「もう起きる?」

時計を見ようと首を上げたなまえに、九時過ぎだよ、と言えばぽすんと頭が枕に落ちる。また香る。

「もうちょっと…だめ?」
「いいよ」

なまえは欠伸を押さえて鎖骨の辺りに額を寄せた。ふくらはぎに爪先が掠める。瞼は重そうだ。

「んー」

息が肌に当たる。擽ったい。

「しあわせだなあ」

くぐもっていたけど、耳は確かに声を拾った。ゆるゆると微睡みの中で同じことを考えていたと思うと頬が緩む。

「うん、幸せだな」
「うんうん、幸せ」

なまえは少し笑って、背中に腕を回した。髪の匂いを嗅ぐように首を曲げる。目を閉じればすぐに意識が落下した。