「あっカズくんおかえり!」
鍵が閉まっていたから気付かなかった。ドアを開けたとき、ちょうどキッチンから出てきたなまえがこちらへ近付いてきた。なんとなく、右手を後ろへ隠した。
「…ただいま。来てたのか」
「うん、早く上がれたから。明日まで待てなかったの。ご飯食べてきた?」
「いや、食ってねえ」
「良かった。勝手に作っちゃったの」
スギの誘いを断って正解だった。靴を脱ぎながら、手を出していた#なまえに荷物を渡す。まさかいるなんて思わなかった。どのタイミングで渡せばいいんだ。右手がぎこちない。
「なまえ」
「なあに?」
「やる」
結局、無愛想に押し付けた。反応を見るのが気恥ずかしくて、すぐさま部屋に入り上着と帽子を脱いだ。いつも通りを装いながらリビングへ戻れば、キッチンのカウンターになまえがいた。
「カズくん、これ」
「…あー、前に美味そうって言ってたろ」
ソファに座る。ケーキの箱を両手で抱えたなまえが、目をきらきらさせながらソファに近付いてくる。
「買ってきてくれたの?」
「…おお」
「嬉しい!」
ローテーブルにそれを置いたなまえが突っ込んできた。慌てて受け止めるも、その必要はないようだった。きちんと隣に着地して、腕だけを首に回してくる。柔らかい髪から甘い匂いが香った。
「おい、…飯は」
「ああ!いまあっためるね」
ぱっと顔を上げたなまえが近い。このところ忙しくて、オフに会えるのも久しぶりだった。黙ってその顔を眺めていたら、少しずつ赤くなっていく。退こうとしたなまえを、両手で捕まえた。
「か、かずくん…」
「飯、後で良いか」
「えっ」
意図を汲む前に、良いけど…となまえは言う。ベッドまで移動するのが面倒だから、ソファに押し倒した。その腕が動く前に跨いだ。
「久しぶりだしな」
「えっ」
「嫌か」
困ったように眉を歪めて、小さく首を横に振った。本当に小さく。
「ちょっと、我慢してくれや」
「…カズくん」
首に手がかかって、俺はその唇に噛み付いた。