※不適切表現多数含みます
※心の広い方のみどうぞ
「不っ細工な面」
そのとき私の意識は目の前のノートパソコンに向いているようで、実のところぼんやりと意味のない考えごとをしていた。だからそれは私に向けられた言葉でなく、ただの音として認識されていて反応できなかったのだ。
「いい度胸してんな、クソアマ」
「…は、ああ、持田さん、まだいらしたんですか」
「お前の耳は飾りか」
持田さんは大層機嫌が悪そうだった。というか多分悪い。すみません、気が付きませんでした、とその通りに謝ったが眉の歪みは変わらなかった。
「なに、お前、振られた?」
「は? な、にを」
「図星かよ」
「ち、違います、振られてません、ていうか、付き合ってません」
「へー彼女でもいたんだ」
彼女なら、まだ私にも望みはあったかもしれない。いたのは彼女じゃなかった。妻子だった。そりゃそうだ。なんで考えなかったんだ。私は莫迦だ。至上最高に莫迦だ。どうして左手の薬指のチェックが遅れたのか。あんなに素敵な人なんだから、結婚していたって不思議じゃない。からかう声に私は黙って、持田さんの声はさらに楽しそうに茶化した。
「違う? 結婚してたのか」
ずきん、と胸が痛んだ。私はそんなに分かり易いか。表情は伺えない。持田さんの表情が分かるということは私の表情も見られてしまう。
「…つーか、そんなことはどうでもいいからテーピング直して」
「ご自分でできるんじゃあ」
「できないから頼んでんだよ」
「…ああ、はい。分かりました」
ノートパソコンを閉じる。目の奥が僅かに痛んだ。私は医務室へ向かうのであろう持田さんの後に続く。外は真っ暗で、医務室も真っ暗だった。残業しているのは私くらいだ。まさか持田さんがまだいるとは思っていなかった。なんだか、意外だ。持田さんは私を先に医務室へ入れた。待っててくれるような人にはとても見えなかったから驚いたが黙っていた。棚を開けても電気はつかない。薄いカーテンから街灯が漏れている。振り返れば持田さんは後ろ手にドアを閉めて、鍵をかけたようだ。
「…持田さん?」
「お前、ほんっと莫迦」
大股で近づいてきた持田さんは握り潰す勢いで私の腕を掴む。逆らえずに引きずられれば、真っ白なベッドに打ち付けられた。
「なあ、どんな奴だった」
「なにが」
「どんな奴だった」
表情はよく分からない。部屋の暗さに目が慣れない。私が背を預けるベッドに、持田さんが片足を畳んで載せた。手のひらが私の顔の横につかれる。非常に、危ない状況だと、いまさら冷や汗が頬を伝う。
「どんな、って…とても、優しい人でした」
あなたみたいじゃなく。それは言えなかったけれど、静かな空間に私の声だけがあった。求められた答えかは分からないが。持田さんは黙る。空気が重い。押し退けてでもここから逃げないといけないのに、身体が動かない。
「そりゃ好都合だ」
目をかっ開いて笑っている、気がした。私は少しでも気をそらさなければならないと思い、怖がる口をこじ開ける。
「なにが、好都合なんですか」
「俺は優しくないから」
言うが早いか、持田さんは私の足の間に滑り込むようにベッドに乗った。驚いている間に、手首を片手でまとめあげられ、シャツのボタンを外されてしまう。私はやっと事の重大さを認識して足をばたつかせた。
「も、持田さん! やめて、やめて下さい」
「やめない」
「やだ、やだ、」
頭を振りながら抵抗するも、アスリートに敵うわけもなく、ブラウスは開かれ空気が肌に触れる。動きのない持田さんを伺えば、顎を掴まれ口を塞がれた。唇が触れ合うだけのそれにびっくりして私の足は止まった。
「も、持田さん」
「脱げ」
「嫌です」
「脱げ」
怖かった。そうでなくても持田さんは怖いのに、表情も分からず、さらにこんな状況は恐怖を増長させる。解放された震える手でブラウスを脱いだ。押さえられていた手首が少し痛んだ。下も、と言われ、スカートも脱いだ。手が震えてファスナーを下ろすのに手間取った。泣きそうだった。どうしてこんなことになったのだろう。持田さんもシャツを脱いでいる。暗闇に慣れてきた目が鍛えられた腹筋の凹凸を捉えた。私はこれから何をされるんだろう。下着とガーターストッキングのまま小さくなって座っていたら、足を引っ張られながら肩を押された。腕で目を隠したらブラのホックを外され、それも取られてしまった。
「やだ、やです、持田さん、やめて」
「やだ」
ぺろりと胸を舐め上げられる。びく、と足が震えた。子供のように、やだ、を繰り返していると持田さんが口を開いた。
「お前、うっさい」
「持田さんなにしてるか分かってるんですか、これ犯罪ですよ、犯罪」
「じゃあ警察行けば」
「行ったら、持田さん、サッカーできなくなるじゃないですか」
「だって犯罪なんだろ」
「そうです! …けど」
震える声で騒いでも持田さんを止められないだろう。胸に置かれていた手のひらが動かなくなる。
「なんで、こんなことするんですか」
「…なんでだと思う」
「分かりません」
ついに溢れた涙が止まらなくなると、持田さんが乱暴に何かを顔に載せた。
タオルだった。持田さんの匂いがする。身の危険は増すばかりで、けれどもう抵抗する気力もなかった。
「お前、いまなに考えてる?」
私は肩を震わせてひたすらタオルに涙を吸わせる。怖い人だとは思っていたけど、犯罪すら躊躇しないとは。けれど、チームのことを考えると、言えない、と思ってしまう。不意に持田さんの手が髪に触れた。
「俺のことだけ考えてろよ」
タオルを少しだけずらして表情を伺おうとしたら唇が重なった。やっぱり触れるだけで、唇は離れた。
「っあ、」
持田さんが胸に吸い付いた。タオルが視界を塞いだせいでそれに気づくことができず、声を上げてしまう。持田さんは何も言わない。短い髪がちくちく肌に触れて擽ったい。全然気持ち良くなんてなくって、ただただ嫌悪感を抱くだけだったのに、先端を軽く噛んだり、吸われているうちに、下腹が痺れるように疼く。その手がゆるゆると腹や足を這う。
「あ」
「な、なに、なんですか」
「…お前、ゴム…持ってないよな」
「持ってないに決まってるじゃないですか!」
「ピル飲んでねえの?」
「飲ん、でます、けど」
「じゃあいいか」
タオルを少し下げて、持田さんを見上げた。僅かだが汗をかいている。なんだか、やらしい。ていうか、避妊のことを考えていたのか。やっぱり意外だ。ぼんやりしていると、持田さんの手が最後の下着にかかった。
「え、やだ、やだよ、持田さん」
「いまさら」
急いで腕を掴んだけれど、太ももの真ん中辺りまで下着を脱がされてしまった。何よりも恥ずかしさが勝つ。意外にも緩やかな愛撫のせいで僅かに湿っているそこに、持田さんが指を這わす。直接的な刺激に、爪先までがびくびく揺れた。
「ん、っ」
「声出せよ」
「や、ですっ」
悔しいが、子宮が疼く。優しくない、というわりに優しい気がするのは気のせいか。経験が乏しいためによく分からないけども。
「いたたたっ!」
ぐ、と持田さんが指を入れようとしたようだ。初めてのときのような痛みが疾る。場にそぐわないような声が出て、持田さんの視線を感じた。
「…まだ一本、ていうか全然入ってねえけど」
「ひ、久しぶりなの!」
「…痛い?」
ぐぐっと指が肉を割って進む。濡れてはいるものの、痛いというかきつい。下唇を噛んだら、不意に指が抜けていった。タオルを下げて、何が起きるのか確認しようとしたら、内ももにちくちくと髪が当たった。
「も、ちださん! やめて」
「うっさい」
「っ、喋んないで、」
「どうしよっかなー」
面白がっている。濡れた舌で舐められたり息がかかると、さらに粘つく液体を分泌していくのが分かる。舌で突起をつつかれたり吸われるだけで腰が跳ねた。
「ひあ、っ」
腰が痺れる。恥ずかしい。下腹がびりびり痺れる。じわじわ追い上げられて、もういきそうだと思った。
「なまえ」
名前が呼ばれて油断した隙に、指がねじ込まれた。先ほどよりはすんなり飲み込んでしまう。指が内壁に刺激を与えながら、舌が突起をなぞる。快感の疾り方が変わって、さらに私はそこに近づく。
「うあ、持田さん、も、無理」
「イきそう?」
「やめて、あ、あぁ、やっ、やめて、っ」
歯を食いしばって声を出すことは避けられたものの、強ばった太ももで持田さんの頭を強く挟んでしまった。恥ずかしい。けれどすぐに脱力してしまう。
「おーい」
肩で息をするも、なんとなく恥ずかしくてタオルで口を隠して息を整えようとしていると持田さんの気の抜けるような声がした。目だけ向けると、持田さんもこちらを見ていた。
「入れていい」
語尾が上がってはいるものの、目が怖い。私はゆっくり頭を横に振った。声を出すのも億劫だった。
「じゃどうすんの、これ」
見ない。断固として見ない。なぜって恥ずかしいからだ。私はぷいと視線をずらした。
「無視すんなよ」
「…知りません」
しばし黙った持田さんは私の足を上げさせて膝を裏から押さえつけた。
「なに、やだ、なにするんですか」
「足、くっつけて」
「なになに、なんで」
「入れないから、」
「なにするんですか」
「くっつけろって」
片手で難なく両足の膝裏を抱えた持田さんは、股に擦りつけながら固くなったそれを挟む。だんだんと膝が上体に近づくように曲げられていく。ずっずっ、と太ももに挟まれたそれが股を滑る。突起をこすり上げる度にまたびりびりと痺れが戻った。
「も、ちださん、」
「なに」
「な、なにを」
「入れられたくないんだろ」
「…まあ、そうですけど」
「だったら足合わせろ、お前足細すぎ」
「えっ、すいません…なんで謝ってんだ私」
持田さんが、ちょっと笑った。仕方なく意識して太もも同士をくっつける。持田さんの息遣いがやらしい。伏せられた目にどきどき、してしまった。どうして。
「なまえ」
「…ぁっ、なんですか」
「…俺のこと嫌いか」
「…分かり、ません」
「そいつのこと、まだ好きか」
ああ、忘れてた。目の前の事件で私はいっぱいいっぱいだった。優しくない、と言った持田さんが、本当に優しくないのか疑問に思っていた。まだ好きか、と聞く持田さんの目が、留守番を命じられた子供のように見えたのは気のせいか。
「…分かり、ません」
「…そうか」
「持田さ、っんあ」
腰の動きが速まる。私はまたタオルを噛んで声を堪えた。またいきそうに下肢が震える。持田さんが、私の名前を呼ぶ。何度も何度も。視線を上げると、目が合った。持田さんがタオルを奪う。そのまま、噛みつくようなキスをされた。
「っあー、」
「…持田さ、んっ、も、だめ、あ、ああっ」
「イく、」
持田さんは小刻みに腰を揺らしながら私の腹に精液を吐き出した。そのときの持田さんの動きで、私ももう一度達した。
「つ、疲れた」
「体力なさすぎ」
「…動けない」
持田さんが、横を向いて寝転がった私の下腹を隠すようにタオルをかけてくれる。腹の精液がベッドに向かって垂れた。
「…なんで、こんなことしたんですか」
喉が痛い。声が掠れる。下だけ服を着た持田さんは冷蔵庫からスポーツ飲料を出して勝手に飲んでいた。
「…俺のこと忘れられなくなると思って」
目が合った。もう一口、飲み物を口に含み近づいてきた持田さんが口移しで私に飲み物を与える。少し温い。けれど喉に染み渡る。それから持ってきたボックスティッシュから数枚抜き取り、腹の精液を拭ってくれた。
「俺のこと好きになればいーのに」
「…こんなことされて、ですか」
ベッドに腰かけた持田さんはまたちょっと笑った。だるさに負けて目を閉じたまま、私もつられて口角が上がる。くしゃりと持田さんが髪に触れた。頑張って瞼を持ち上げ、見上げた持田さんはとても優しい顔をしていた。だから私は、持田さんは私のこと好きなんですか?とは聞けなかった。
やっちまった\(^O^)/