とんとん、と彼の手が背中に触れている。心臓の速さで、酷く安心する。腕枕をしている指先が、たまに髪を梳いて耳や頬を掠めた。身を寄せた胸は、ジーノの匂いで溢れている。服を掴みたかったけど、帰りづらくなるかと思ってやめた。明日もいつも通り練習があるのだから早く帰してあげたい。そんなときに限って睡魔は身を潜めてしまう。
彼の刻むリズムに集中する。できるだけ、何も考えないように。時折触れる指先が、僅かばかりだが、意識を奪っていってくれる気がした。
あまりにも寝付けなくて、寝たふりをした。わざと寝息をたてて、それから少し、するりと腕枕が抜けていった。ぽんぽん、と背中を優しく叩かれて、手は離れていってしまう。すぐそこにあったぬくもりが、ゆるりと遠ざかっていくのが、目を閉じていても分かった。優しい手が、肩まですっぽり布団を引き上げる。
もう行っちゃうんだ。ジーノ。なんだか、さみしい。目を開けてしまいたい、離れた手を掴んで引き戻したい、そんな衝動に駆られた。けど、堪えた。細く光が漏れて、世界は私を残して遮断されてしまう。鼻の先に残る、微かな匂い。ユニフォームを着ている彼の姿を思い出したら、もっと寂しくなった。
扉が開いて、光が細く漏れたのを薄い瞼で感じた。静かに近寄るジーノの気配。手のひらが、頭を撫でる。喉の奥がじんじん痛んだ。泣きそうだ。堪えていたら、ぼすっとベッドが音をたてた。背中に腕がまわる。額が、くっつけられる。ジーノ。

「なまえ」

小さな声が、空気を揺らして、耳を滑っていった。返事を飲み込む。

「愛してるよ。…おやすみ、良い夢を」

頬に、唇が掠めた。もう一度、少し荒っぽく頭を撫でて、ジーノは部屋を出て行った。玄関が開いて閉まる、遠い音がなくなってから、目を開けた。平らになった布団に触れて、掻き寄せた。顔を埋めたら、きつく閉じた瞼の隙間から涙が滲んで布団を濡らしていた。悲しいんじゃなくて、寂しくて切なくて、どうしようもない。頭を撫でた手が、愛してると囁いた声が、遠ざかっていくのが、どうしようもなく嫌だった。私の手が届かない場所に行ってしまうのが、どうしようもなく嫌だった。我儘だって、分かってるから言わないけど。ほんの少しの距離でも、離れるのは、やっぱり寂しい。気がついたら朝で、瞼が少し赤くなっていた。













多分、まだ寝てないのだろう。気を利かせてくれたのだろう。置いて帰るのは心苦しいけれど、彼女の意を汲んだ方が、と思って部屋を出た。それが良かったかは分からない。愛してるよ、と言ったときに、ほんの少しだけ、寂しそうに眉尻が下がったのが、薄暗くても分かった。良い夢、に、自分が出ていけたなら、彼女は笑ってくれるのだろうか。振り返る。暗闇に、少し輪郭を滲ませたマンションを見る。一緒に暮らそうと言ったら、なまえはなんて言うかな。