ワードパッドM



3話



「遅い!早く持ってくるざんす!」
「は、はい!」

名無子は大慌てで村岡の座るデスクに書類を広げた。
――あれから数日、村岡に雇われてからというものの、名無子は彼にこき使われる毎日を送っている。最初のうちこそ初日のような清掃さえこなせばよかったものの、村岡から与えられる業務はどんどん増えていき、すっかりカジノの雑用係と化していた。今だってバケツと雑巾を片手に事務所の床掃除をしていたところを村岡から呼び出しがかかり、部屋の隅のダンボールの山から目当ての書類を持ってくるように言いつけられていたところだ。大急ぎで該当の書類を発掘した名無子に村岡から辛辣な言葉が飛ぶ。

「まったく、たかが1枚の紙見つけるのにどれだけ時間がかかってるんだか……」
(うっ……。でもこれも衣食住のため……!)

村岡の冷たい視線に縮こまりつつも、名無子は自分に言い聞かせた。ふと村岡のデスクを見るとマグカップの中が空っぽになっていた。

「何か飲まれますか?」

名無子は村岡に話しかけるも返事はない。ちらりと村岡の顔を見るとデカデカと「当たり前だ」の5文字が張り付いてるような表情を浮かべている。

「す、すぐ入れますね!」

カップをひったくりバタバタと給湯室へ向かった名無子はたどたどしい手つきで真っ黒な液体をカップに満たし、村岡の手元へ届ける。

「お待たせしました」

村岡はしかめっ面のままそれを受け取って書類に目を落とした。もちろん感謝の言葉など無い。手持ち無沙汰の名無子はその様子をもじもじと眺める他ない。

「……掃除」
「あっ……!」

その言葉でようやく我に返った名無子は逃げるように磨きかけの床の隅っこのほうに行き、冷たい水が並々入ったバケツに雑巾もろとも両手を突っ込んだ。
――以上が最近の名無子の労働の様子である。



(あの時目先の仕事に飛びついたのがいけなかったんだ……)

仕事を終え帰宅した名無子は、ヘトヘトの体を安いマットレスに沈めながらあの日の軽率な判断を悔やんだ。疲労が溜まった体の節々が名無子にそうだそうだと責め立てるように痛む。

(でも、他の仕事なんて全然見つからないし……)

貧相なつくりのアパートの薄い壁から漏れ聞こえる隣人の生活音に耳を澄ませながら、名無子は天井をぼーっと見上げた。寝返りを打つとチャリ、と上着のポケットから






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