おやすみ


今日も夜が来る。
普段はそこらの大人よりも大人ぶった、そんな様子が逆に子供らしい2人だ。
今日も日が沈み月が顔を出すと、使用人たちが食事の用意をし、食事が終わると風呂を焚いて彼らを風呂へと促す。
なんでもかんでも世話したがる使用人たちにうんざりした様子が、いかにも子供だ。

風呂から上がり、使用人に体を拭かれわしゃわしゃとタオルドライされている間、彼らは決まって不機嫌そうに無言で、そんな様子を使用人は微笑ましげに見ている。

あまり人と接するのが得意でない彼らは、風呂が終わると自分たちの部屋に閉じこもってしまう。

2人には広すぎるのではと思われる数十畳の部屋には机が2つ、重そうな本が天井まで詰まった本棚、大きな天蓋付きのダブルベッドがある。

しかし彼らにこんな大きな部屋は必要ない。
ベッドに潜り込んでしまえば2人だけの城は作れるという事を知っているからだ。
そしてベッドの中で今日何があったかを教え合い、教師の悪口で笑い合い、イタズラの計画を練り、将来の夢を小声で話し合う。
そうしているうちに、今日はもう終ろうとしていた。

「Daniel」

片割れの名を呼ぶのは兄のMichelだ。
呼ばれたDanielは、Michelと2人きりのこの時だけはいつもの無表情を崩して慣れない笑みを見せる。

「Michel」

そう応えるDanielの声音は眠気と甘えを含んだもので、Michelはそんな彼を素直に愛らしいと、そう感じた。
じっと兄の目を見つめるDanielは、何故名前を呼ばれたかはっきりと理解しており、そっと目を閉じると、Michelはその瞼に口付けた。
Danielはくすぐったそうにしながら笑んで、Michelの額にお返しをすると、そのまま彼の背中に手を回した。

「おやすみ、Michel」
「おやすみ、Daniel」

Michelは、Danielが眠りについたのを確認すると、満足げに自らも瞼を閉じた。

「愛しているよ」

ぽつり、呟かれた言葉は恐らく誰の耳にも入らなかっただろうが、こうして口に出すことであたたかい何かが心を満たしていくことも、彼は知っているのだ。

20160603
習作
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