おはようの日課


朝。
エディはいつも通りの時間に1人で目を覚ます。
そして朝の習慣をひとつ、ふたつ、淡々とこなし、外の花に水をやるため外に出た。
まだ冷たい朝の空気の気持ちよさに深呼吸する

花に水をやり終えると、エリスが普段使っている部屋に続く階段を上り部屋の戸を叩く。

「エリス」
「はい」

エリスは既に起きていたようで、自分で出来る身支度は済ませていた。

「朝食」

そう言うと、エディはエリスの手を取ってダイニングに続く階段を誘導する。

「いつもすみません」

申し訳無さそうにエリスは俯きながらエディの腕をぎゅっと掴む。

「いい。そういうのは」

淡々と言い放つその言葉はエディにとっての精一杯の否定の言葉だ。
こうやって彼は淡々と不器用にエリスの自己否定を否定していく。

エディはエリスをテーブルまで連れて行き、席につかせると、自身も隣に座った。

「今朝は卵焼きとトーストとサラダとコーヒー。ちなみに卵焼きは最初目玉焼きになる予定だった」
「私はエディの卵焼き、大好きです」

エディは真顔で、エリスは笑っている。

エディが肩から手を回してそっとエリスの唇に触れるとエリスが口を開く。
そしてエディがエリスの口に朝食を運んでいく。
彼らの間で唇に触れる事は「口を開けて」の意になる。

最初の頃こそ「視力が無くても食事は出来る」と、この行為を嫌がっていたエリスだが、いつの間にかすっかり習慣になってしまった。

「美味しいです」

エリスは不器用に笑みながらそう言うとエディは「うん」と返した。

「お昼は何が食べたい?」

エディはそう問いながらそっとエリスの髪に触れる。

「そうですね...」

エリスは少しくすぐったそうにしながら応えた。
エディには無意識の内にエリスの髪に触れる癖がある。
エリスはやめて欲しくなくて、気付かない振りをする。

「オムライスが食べたいです」
「また卵...」
「いいじゃないですか」
「うん」

エディは肯定する。
ここのところ卵料理が続いているが、エリスの中で卵が流行っているのだろうか。

「エディのオムライス、大好きなんです」
「いつもそれ...」

エディはエリスの頼みを断れない。
『 大好き』
そう言われてしまうとどうしても何も否定出来なくなる。
単純だと言われるかもしれない。
でも、エリスは嘘をつかない。
エリスは「嘘のつき方」を知らない。

「もう1回」
「え」
「好きって言って」
「...好きです。大好きです」
「うん」
「エディ」
「僕も好き」

エディは満足げに終わった食事の片付けを始めた。
少し気恥ずかしくなるくらい、彼らは初々しくて、そしてなにより幸せだ。

20170419

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