夜の帳


静かな部屋。
本のページをめくる音だけが聞こえる。

明るい緑色をした澄んだ瞳が紙の上の字列を追っている。
そんな様子を、同じ色をした瞳がじっと見つめていた。

指がそっと次のページに触れる。
紙が擦れる音がする。

この部屋にはまるで無駄なものが存在しないみたいだ。

双子の兄であるMichelはベッドの上で足を組み、膝の上に本を載せ、目はひたすらに文字を捕らえている。

双子の弟であるDanielはそんな様子をじっと見つめている。
DanielはMichelが本を読んでいるのを見るのが好きだ。

普段の、食事を摂っている姿だったり、授業を受けている姿だったり、自分に楽しそうに話しかけてくる姿だったり、そんな姿も当然好きなのだが、本を読んでいる彼には普段とは違う魅力があった。

本を読み終えたMichelはそっと本を閉じ、Danielの方へ視線を向けた。

「Daniel、お前は僕が本を読んでいる時、いつもそうしているね」

そう言う彼はいたずらっぽく笑んでいる。

「本を読んでいる時のMichelが好きだからね」

Danielは表情一つ変えずそう答える。

「この間は、『お菓子を食べている時のMichelが好き』っていってなかった?」

「お菓子を食べている時のMichelも、本を読んでいる時のMichelも、同様に好きだよ」

「ほんとかなあ」

そう言いつつもMichelは口元が緩むのを隠しきれていない。
これも彼がDanielにしか見せない表情のうちの一つだ。

「今の顔も好き」

「...今日はどうした?」

普段と様子の違うDanielに、Michelはつい視線を逸らしてしまう。
DanielはMichelとの距離を詰めて、彼の膝の上に置かれた手を捕まえた。

「Michel、好きだよ」

そう言って触れたか触れないかわからないくらいの口付けをする。

「.........」

Michelは顔を赤くして俯いてしまった。

「僕も......好きだよ」

「...ならこっち向いて?」

Danielが俯いてしまったMichelの頬に両手で触れ、視線が合うようにそっと顔を自らの方へ向ける。

「おまえ、ちょっと強引なところあるよなあ。そんな所も嫌いじゃないけど」

「嫌いじゃない、じゃ、嫌」

「欲しがりさんだね」

そう言うとMichelはDanielの隣に座り直すと、「好きだよ」と耳元で囁いてもう一度深く口付けた。


20190201

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