本編

「俺ら付き合うことになったから」

 ーーお前には言っとこうと思って。
 そう笑う親友の隣で、恥ずかしげに顔を赤らめたそいつを見て俺は足元から崩れ落ちるような感じがした。

 *

 出会いは5月。昇降口で女友達と話していた時、蓮が地味な男を連れているのを見て声をかけたのがきっかけだった。
 蓮は中学からの仲で、高校に入ってからも同じクラスだった。2年からは別れたが、変わらず一緒に遊んでいた。
 イケメンと騒がれる蓮がクラスの地味な、所謂隠キャと呼ばれるような男と仲良さげにしていることが不思議だった。

「あーごめん、今からこいつん家でゲームするから。な、佐々木」

 女友達と一緒にカラオケ行かないかと誘えば、蓮はそう言って佐々木と呼ばれた男の肩を抱いた。
 ーー正直、あまり興味はなかった。蓮の気まぐれで男を構っているだけだろう。俺はそっか、と笑ったたけだった。

 でも、佐々木と蓮はどんどん仲良くなっていった。蓮のクラスに遊びに行けば、2人で楽しそうに話しているのをよく見かけた。俺も少しづつ佐々木に興味を持ち始めた。

 ある日の放課後、佐々木が一人きりで教室に残っているのを見かけた俺は何となく声をかけた。
 佐々木は戸惑っているような顔をしたが、挙動不審にもならずに以外と普通に話してくれた。

「佐々木くん、すげー字綺麗だね」
「そう、かな?」
「うん!女子より字綺麗だよ、俺こういう字好きだなー」

 日誌に書かれていた佐々木の字は綺麗で、すごく整っていて読みやすい字だった。
 素直な思いを伝えれば、佐々木は顔を真っ赤にして照れていた。びっくりして、指摘したらもっと頬が赤く染まった。

「はずかしい、から…見ないで」

 そう言って顔を生白い手で隠した佐々木に、俺は不思議な感情を抱いた。男には普通抱くことのない思い。
 赤面する佐々木が、可愛い…と素直にそう思ってしまった。

 それがきっかけで、俺は佐々木に絡むようになった。蓮、佐々木、俺の3人で遊びに行くのが普通になって、佐々木とも随分仲良くなった。

 *

 夏休みが終わり、新学期が始まった。
 始業式の次の日、2人に会えばどこか佐々木の態度がぎこちないことに気づいた。どうやら始業式のあと、2人は遊んでいたみたいだ。

「えー!俺も誘えよ!」
「たまには2人で遊びたいなってなったんだよ」
「なんだよそれー…俺ははみごかよ」

 蓮は上機嫌な様子で、反対に佐々木は居心地が悪そうな様子だった。

「で、お前らは何して遊んだわけ?」
「千尋の家でゲームしただけ、なぁ千尋?」
「う、うん…」

 千尋、佐々木の下の名前だ。それにも驚いたが、佐々木が蓮の言葉に恥ずかしげに俯いたのも気になった。
 その時、そんな2人を見て焦燥感に似た何かが俺の胸に湧いた。



「あたし、大輔のこと好きなんだよね…」

 ーーセフレでもいいから、ダメかな?
 目の前で顔を赤らめながら女友達の1人がそう言った。黒髪のショートヘアのボーイッシュな見た目で、あまり自分の好みじゃなかった。

「じゃあさ、ホテル行こうぜ」

 普通なら断るが、なんとなくイライラしてヤりたい気分だったから俺はそう返した。

 イライラしている理由は、恐らく蓮と佐々木が以前より仲がいいことだった。
 蓮は嬉しげに佐々木を揶揄い、甘やかし、佐々木はそれを照れながら文句を言いながら受け入れる。そんな2人、特に照れている佐々木を見るとなんとも言えない気持ちになる。
 あの放課後の教室で見せた顔を、蓮にではなく俺に向けて欲しかった。


「ーーっ、だいすけ…?」

 そう呼ばれて、視線を女に向ける。一瞬、女が佐々木に見えた。佐々木が髪を乱れさせて、頬を赤らめて俺の下にいる…そう思うと、冷めていた体が熱くなったような気がした。
 緩かった腰の動きを激しくして、強く突きつけた。
 女が悲鳴のような嬌声を上げて脱力し、俺もゴムの中に吐き出した。
 ーーこの時、俺の目の前にいたのは佐々木だった。


 それから、俺はおかしくなった。
 廊下ですれ違ったとき、俺を見て小さく微笑む佐々木に胸が高鳴ったり、佐々木を目で探すようになった。
 女の趣味が変わって、ボーイッシュな雰囲気の子と関係を持つようになった。毎回絶頂するときに頭に浮かんでくるのは佐々木で、俺は自分がおかしくなっていくのを自覚した。

「最近、お前変わったよな。前までロングが好きだったたくせに、ショートばっかじゃん」
「うーん…なんか、可愛いなって思ってさ」

 蓮はふーん、と声を漏らし目線を雑誌に戻した。
 俺も変わったが、蓮も女遊びを全くしなくなった。
 蓮のセフレの1人が寂しいと嘆いていたのを覚えている。

 美容室でお互い髪を染めてもらいながら、少しの沈黙が続き俺が口を開いた。

「何で黒染めすんの?アッシュ気に入ってたんじゃなかったっけ」
「あー…千尋が黒髪のほうが似合うとか言ってきてさ」

 俺はそうなんだ、と返したがその声は強張っていた。蓮の発言が原因だが、そのあと続けられた言葉にさらに動揺させられた。

「あいつ、俺が綾○剛に似てるとか言ってきて…絶対黒髪のがいいってうるせーの」

 仕方ないから染めることにした、という割に嬉しそうに見えた。
 蓮はどの女に髪色や髪型について何か言われても、何も変えることはなかった。だから、俺にはそれが異様に見えて仕方がない。


 次の日の学校で蓮の髪色をかっこいい、と佐々木が頬を染めて言った。俺は横で笑顔を浮かべながら、キツく拳を握りしめた。
 ーー俺はこの時蓮に嫉妬し、佐々木への恋心を自覚した。

 *

 俺は初恋で、どうすればいいのかわからない間に2人はどんどん距離を縮めていた。
 佐々木は、俺と蓮とで態度が変わってきた。笑顔であったり、話し方、仕草…佐々木をよく見ているからこそ、少しの違いが俺にはわかった。
 わかるから辛いと感じた。
 それでも気持ちはなくならないし、2人を見ているだけで時は流れていた。

 恐ろしいこの瞬間がいつか来るだろう、そう理解して覚悟を決めていた。
 ーーだけど、覚悟なんて全くできてなかった。
 2人に告げられた言葉は俺の胸をナイフのように傷つける。

「広岡は気持ち悪い、かもしれないけど…俺は今まで通り仲良くしたいし…」

 ーーだめ、かな?
 不安げな様子で佐々木はそう言った。
 その俺を見つめる不安げな瞳が可愛くて愛しくて、胸は押しつぶされそうなほど痛んだ。
 大丈夫、ゆっくり発した言葉は少し震えていた。

「びっくりしたけど、俺はちゃんと応援するから。これからも…友達でいような」

 顔は必至に笑顔を保ち、そう答えた。言葉を吐き出すたび、胸は針を刺されたかのように痛んだ。


ーー叶うなら、あの日の放課後に戻りたい。
でも、頭の中でその記憶がどんどん離れていき暗闇の遥か遠くに笑顔の佐々木がいる。その横には、俺ではなく、蓮が立っていた。


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