01
「なあ、セックスさせてくれないか」
「……はあ?」
ハッテン場と言われる、人気のない深夜の公園で立っているといきなり声をかけられた。
男は見上げるほど背が高く、がっしりした体格をしていた。髪がボサボサで目元は前髪であまり見えないからか、顔はよくわからない。
俺は溜息を吐いて、男を見上げた。
「いくら持ってる?口なら5000、本番なら3万…あ、もちろんゴム付きね」
「……タダじゃないのか」
「言っとくけど、あいつらみたいに俺はただヤリにきてる訳じゃないから!金稼ぎに来てんの!」
向こうの草むらでヤッてるやつらを指差して俺は怒鳴った。金ないなら他当たって、そう男をあしらってまた客を待った。
「………」
「………」
「あのさ、邪魔なんだけど」
「……」
突っ立ったまま離れない男は、なんだかしょぼくれていてじっと俺を見ていた。目元が見えないからわからないけど、たぶん見ていた。
俺はまた溜息を吐いて男に向き合う。
「あんたさ、今いくら持ってんの?」
「……これだけ」
「…まじで?」
1枚の野口と500円玉、あともっと小さい小銭が何枚か。
「これ今の全財産?まじで?ほんとに?」
「……」
「あんたどうやって生活してんの?」
俯いた男にもう何度目かわからない溜息を吐いて、筋肉がついた逞しい腕を掴み歩き出した。
男は戸惑ってるみたいだが、俺は気にしない。
適当にコンビニに入り、安いハンバーグやらポテサラやらつまみやらをカゴに入れていく。酒も数個入れる。
男から金をひっ掴み、レジで会計を済ます。足りない分は俺が出した。
「一体なにするんだ?こんな買って…」
「なんか飲みたい気分だし腹減ったから買ったの。あんた金ないみたいだし、あれくらいの金貰ってもなんの足しにもならない」
「………」
「セックスさせてあげるから、あんたの家行こ。ホテルなんていけないでしょ?」
男に連れられてついた場所は二階建てのボロいアパート。予想通りの家だった。
二階の1番奥の部屋で、部屋はやっぱり殺風景で埃っぽい。男の一人暮らしって感じの部屋。
さっそく惣菜をレンチンして酒開けて、2人で飲み始める。
「…ね、カネモトさん?でいいの」
「ああ、金本 健(かねもと たける)だ」
「ふーん、タケルね。俺は柚子(ゆず)よろしく」
「ユズ…」
体はでかいくせにチビチビ酒を飲むタケルに、俺はしなだれかかり盛り上がった胸を撫でた。
「タケルって無職?」
「違う。鳶職をしている」
「鳶職ねー、だからこんなムキムキなんだ」
「いやでも筋肉はつくからな」
肩に手を回されより引き寄せられた。
あまーい酎ハイを飲んで、見えない目を見上げる。
「働いてんのに金ないの?」
「…手持ちがそれしかない」
「じゃあ後払いでいいから払ってくれる?…ふふっ…嘘だよ、別にいい」
ムッとした顔のタケルに笑ってしまう。
いつもならきっちり金をもらうが、タケルに対しては期待してなかったからかそんなにがっつく気はなかった。
酒もいい感じに回ってきて、気持ちが浮ついてくる。俺は酒に弱い。
「ね、顔見せて…うわっイケメンじゃん!」
「……そう、か?」
何となく前髪を退けたら、びっくりするほど男前な顔があった。鼻も高くてラテン系の外国人のような顔をしていた。
のっぺりあっさりな俺とは全然違う顔だ。
「髭そって前髪を切ったらだいぶ変わるよ…ほら、髪くくってさ」
前髪を後ろに流し手首につけていたゴムでくくり、ハーフアップにする。
黒い瞳がじっと俺を見つめてくる。なんだか胸がどきどきしてきた。
「んっ…ふ、…」
「…甘いな」
「酎ハイが甘いからだよ、んぅ…っ」
甘い優しいキスにうっとりしてしまう。薄く目を開ければタケルも見ていて、ゆっくり舌を絡めながら見つめ合う。
こんな美形を客にしたことはないから、なんだか変な感じがした。
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