君と、自己紹介



それから服を着てくれて、
髪を乾かして、
テレビをつけながら、
家にあったコンソメスープを一緒に飲んだ。



長いまつ毛がパチ、パチと揺れている。
あ、ちょっと眠そう?


綺麗に波打つ黒い髪と、
綺麗な顔立ちは外国人に見えなくもなかった。


「私、木村なみこ」

「……………」

「24歳、OL。一人暮らし。独身。彼氏なし。好きなものは映画とお布団。嫌いなのは嘘をつかれること」


「……………」


「自己紹介だよ。君は?」


「…ルッチ……ロブ・ルッチ…」


「ルッチ君、ね」


確かに、
こう聞いてみると男の子の声かもしれない。
声変わりする前の幼な声。


「そっちもしてよ、自己紹介」

「………」

「私だけとかズルくない?」



さっきまで眠そうだった目が急に覚め、
真っ直ぐ見つめられた。

心なしか私の背筋も真っ直ぐ伸びる。




「ロブ・ルッチ。11歳。サイファーポール養成所ナンバーナインの特別候補生。好き嫌いは特にない」



「………終わり?」



「終わり。」



真面目に聞いて損したわ。
ルッチ君は相当
頭がぶっ飛んでいらっしゃいました。


話し終わったにも関わらず、
未だ真っ直ぐ見つめてきてかなりのドヤ顔。
いやそこまで堂々とされても困るから!




「……何ポールだって?」


「サイファーポールナンバーナイン。通称CP9。六式を習得して、正義のために闇に生きる。それが俺の生き方だ。」



”それが俺の生き方”とかラッパーみたいなこと言われても知らんわ。
だったらあんな雨の中、人の家の前で でぶっ倒れて瀕死になるような生き方して欲しくなかったわ。



「ルッチ君は日本人?それとも外国人?」


「世界政府の人間」




胡散臭げに見てみても、
本人は至って真面目なようで、
全く顔色を変えない。


うーん、やっぱり顔立ちは綺麗なんだなー。





「じゃー…ルッチ君はどこから来たのかな?」


「島だ。そこに養成所がある」


「………その島はどこにあるのかな?」


「エニエス・ロビーの裏。地図にない、世界政府の中でも一部だけが知っている極秘の島。」


「…じゃあその島からどうやってここに来たのかな?」


「分からない。目がくらくらして、星に吸い込まれて…気付いたら倒れていた」


「あ、オーケー。質問変える。島の話はもうやめよう」



スマホの検索画面で”エニエスロビー”を検索してみたが、どこかの綺麗なホテルのロビーの画像しかヒットしなかった。一応、さっきの”サイファーポール”や”CP9”も調べてみたが、それらしき内容の結果は出てこなかった。

嘘をついてるようには見えないけど、得体が知れなさすぎる…。それか記憶でもなくしちゃったのかな。




「今度は俺が質問する」


「どうぞ」


「ここはどこだ?」


私も相当困惑していたが、それはルッチ君も同じらしかった。
元々顔に出ないタイプなんだろうな。
でもかすかに、目が困惑しているのが分かる。



「ルッチ君、ここはね、トーキョーっていうの。ジャパンって国のトーキョーって街。分かる?」


「……?」


「ご両親は?家族はどこにいるの?」


「いない」


「いないって…。でもずっと一人で生きてきたわけじゃないでしょ?誰かと暮らしてたんじゃないの?」


「気付いた時から親はいない。ずっと訓練生と生活してる」



訓練生って……。
一体君は何を目指しているんでしょう。



「じゃあその訓練学校のお友達が、ルッチ君にとって家族だったんだね」


「いや、アイツらは友達でも家族でもなんでもない」


「えー?うそ〜?」


「CP9になれるのは、訓練生の中でも上位数パーセントだけだ。それ以外は一生、ただの下級海軍か囚人の看守に成り下がる。俺と違ってCP9になれそうにもないアイツらとは、元から喋る必要もない。」



だからなんだよそのCP9って。
聞いたことないわそんなソルジャー生活。
しかもめっちゃ上からもの言うじゃん。



「ルッチ君さ、友達いなさそう」


「そんなものいらない」


「え、いいの?つらい時とかどーすんの」


「……つらいときなんてない」


「今後あるから!今はないかもだけど、大人になって仕事とか人間関係でめちゃくちゃ悩むよ?そーゆー苦しいときに話聞いてくれる人いないと、めちゃくちゃしんどいってば!」


「………そうなのか?」


「現にいま私もそうだし!ルッチ君の想像の100倍はつらいかな!」


調子のいい上司とか、理不尽なこととか!
子供の君にはまだ分からないだろうけどね!


「六式の練習より辛いのかな……」


「六式?そんなもんよりも全然辛いと思うね!私の場合、なんか嫌なことあったら、絶対家族か友達に愚痴るもん。じゃないと死ぬ!」


「…死ぬ!?」


「うん、…まあ、死にそうなくらい辛いって意味だけど……。…とにかくそんな感じ!多けりゃいいもんでもないし、作るの難しかったら1人、2人でもいいから今のうちに訓練学校でちゃんと友達作っときな!」



ルッチ君を見ると、
衝撃的だったのか元々大きな目を更にパッチリ広げていた。





時計は23時半をさしている。




「さ、もう遅いし寝よう。明日はルッチ君のお家を探しに行くからね」


「俺のお家?」


「そ。とりあえず君の覚えてる限りの記憶をたどって、分かんなかったら交番行く」


「こーばん?」


「ルッチ君を守ってくれるところだよ!」


「守られなくても強い!だって俺は六式…」


「はいはい、六式六式すごいね〜!さあ子供はもうお布団入りましょ〜」





ルッチ君の話を遮ると、ちょっとムスッとした顔をした。

あ、不貞腐れてる。

なんだ。そーゆー顔もできるじゃん。

いままで頑なに人間くさいとこは見せようとしなかったのに、子供っぽい反応してくれてちょっと嬉しいかも。





ああ、今夜も不貞腐れた君の顔の雨に打たれて眠りたい


補欠選手!