思わず知らず
人間を使役として飼うのはあまりにも得るものがない。
多額の初期費用に維持費。やたらと金がかかるくせして寿命は短いし身体は虚弱で脆い。どちらかといえばまあまあ賢い方だが、知能は幼稚。飼育は難しく繁殖も厳しい。
そんな虫ケラ以下の人間を愛玩動物として飼うのが隣星では流行っているようだ。
全く、何を考えているのか。そう悪態をつくショックウェーブはニンゲン専門のペットショップへと足を運んでいた。
金属生命体ではない愛玩生物は人間以外にも存在する。それらには全く興味を抱かなかったショックウェーブは、なぜ人間に興味を抱いたのか。それはあまりにも単純な理由である。
物珍しい。
ただそれだけだ。
店内に入ると小さくはないショーケースの中に人間の幼体がいた。毛色や顔つきが違うなど個としての主張が大きく、バラついている。商品の手入れが行き届いている様子を見る限り、悪くはない店なのだろうとぼんやり思う。
人間たちはこちらを見る、気づかずに遊び呆けている、寝ている。さほど他の愛玩動物に値する生物と変わりはないように見える。
「…!」
一匹、こちらに視線を向けた人間がいる。
これらと変わらない幼体だろう、と眼を向ける。予想は外れた。その個体はほかの幼体とは違い、ある程度成長したようだったからだ。
どうやら視線があったらしく、その人間は自身の身体を跳ねさせた。一度顔を下に向けたかと思えば、また眼を合わせてきた。そしておずおずと頭を下げた。
会釈。人間の挨拶だ。
不意を突かれた感覚だ。人間とはこんなにも、興味をそそるモノだっただろうか。
その人間は雌。丁寧に切り揃えられている毛色は黒だが、どこかやわらかな印象を与える。白色の瞳はくすんではいるが決して濁ってはいない、むしろ透き通っていた。こちらの様子を伺うその姿からは、何を考えているかはわからない。
値段を確認すると、幼体より幾分安かった。一定成長をしているからだろうか。
いや、待て。と自身に制止をかけた。そして自問する。
私はこいつを買う気でいるのか?
なぜ私は虫ケラを飼う必要がある?
いわゆる、衝動買いをショックウェーブは起こそうとしていた。軽はずみな行動はせず、明晰な思考をモットーとする彼にはない行為である。久しくなかった己の座右の銘にも反するエラーにショックウェーブは困惑した。
どう演算を繰り返そうにも、スパークはエラーの処理を拒否をする。なんだ、この感覚は。
「 ?」
虫ケラが何か音声を発した。私は人間の言語プラグラミングを実装していないから何を言ったかはわからなかった。しかし、こちらの様子を伺っていることだけはわかる。まるで、私を心配しているかのよう、で、……、…、……………。
なんなんだ。こいつは。
「一目惚れってやつですよ、それは。そう難儀することじゃあない」
自身でもさっぱりだったエラーの理由をさらりと言いのける店主は多数の契約書を差し出した。それらを受け取り、それぞれ一読をしてサインを書き込んでいく。
私が契約書内容で気になった箇所を問う。店主が答える。淡々としたやりとりが続いた。
書き終えた契約書を店主に渡す。店主が内容を確認し、オーケーを出した。
「じゃあ連れてきますんで。そういやあ、名前はもうお決めになられましたか?」
「いや、まだ決めていない」
「そうですか。書類にあったことを二度も言うのもなんですが、必ず主人のあなたが名づけてくださいよ。従者を縛り付けるための名前なんですから」
でもまあ、と店の裏に行こうとした店主は言葉を付け加える。
「塾考してあげてください。あの子にとっては、あなたからの初めてのプレゼントなんですから」
「…ああ、わかった」
…名前がプレゼント、か。……。…、これは、どうしたものか。
開発した武器や装置のように名付ければいいのだろう。が、果たしてそれで良いのか、悪いのか。
ドリラーは、すでにその名が付いていた。故にあいつはドリラーだ。
あの人間には既存の名前がない。それに本当の名をそのまま名付けることは違法らしい。店主が言うにはお互いのため、だとか。腑に落ちない回答だった。
くだらないことで頭を悩ませる自身に嫌悪する。
「はいお待たせ。運ぶ際は注意してあげてくださいよ。軽く死にますので」
「理解した。気をつけよう」
店主が戻ってきていた。人間は元々入っていたショーケースごと渡されるようだ。
「うちにある人間を飼う際の必需品はぶち込んどきました。あとはここら周辺の店に行ってください。どこに何があって何の店かはデータを送るんで、参考にどうぞ」
データを受け取る。周辺の地図が細かく、しつこいほどに細かく記されていた。この店主はどうやらお節介を焼く気質らしい。
「礼を言う」
商品を全て受け取り、ペットショップを去る。
人間がまた音声を発した。私にではなく、店主に向けて、だ。そしてまた会釈をした。
別れの挨拶だろうか。その様子を横目で見ていると、人間は視線に気がつきこちらを向いた。
相変わらず、何を思考しているのかは読み取れない。私が目を離しても、人間はこちらを見ているようだ。何を、どうすればいいのか、私にはまだわからなかった。
思わず衝動買い 知らず一目惚れ
(……、名前は、どうしようか。)
(…)